捜査機関による違法な取調べ

今日は取調べについての話です。

佐賀県弁護士会所属の男性弁護士が28日,佐賀市内で記者会見し,国選弁護人として担当している男性被告について,「佐賀地検の検事が取り調べ中,被告にカッターナイフの刃先を向けた映像が取り調べの録画記録に残されている」などとして,特別公務員暴行陵虐容疑での刑事告発を検討していることを明らかにした。

佐賀地検は「事実確認を行った上で改めてコメントする」としている。

弁護士によると,被告はわいせつ目的略取容疑などで県警に逮捕され,送検後,佐賀地裁に起訴された。公判はまだ開かれていない。

公判前整理手続きで,地検が取り調べの録画記録を証拠開示した中で,男性検事が2月19日,机越しに座っていた被告に対し,40センチほど前でカッターナイフの刃を出して数秒間示し,言葉を発する場面が映っていたという。

弁護士は「取り調べ中のこうした行為は,供述に影響する可能性がある」としている(2013年5月28日22時17分 読売新聞)。

警察に逮捕された後,被疑者(被告人)は,警察署や検察庁の中で長時間にわたり,取調べを受けることになります。ほとんどの人は初めて逮捕される人達ですから,警察署の留置施設の中での生活自体,辛く厳しいもので,精神的に追い詰められてしまった状態で取調べを受けることになります。警察や検察がこうした被疑者の精神状態を利用して真実とは異なる,虚偽自白を強要することがあってはなりません。そのために取調べの録画録音制度は導入されました。

カッターナイフを示したという検事の対応がもし本当だとすれば,仮に被疑者を脅すつもりがなかったとしても,あまりにも軽率な行為です。そのカッターナイフが犯行に使用された証拠としての凶器なのかどうかで映像の評価も変わってくるでしょうが,いずれにしても,軽率な行為といえます。このような問題のある取調べが白日の下に晒されたのも,取調べ録画録音制度のひとつの成果です。再発防止のために告発することも重要ですが,カッターナイフを示して被疑者に供述させた内容を,裁判で使用させないようにすることも,弁護人の重要な仕事になってくるかと思います。

「刑事司法」に関連する記事

被害者参加制度と裁判員裁判

こんにちは。気象庁が関東地方の梅雨入りを発表してからはや一週間。雨が全く降らないですね。予想外の青空と春風に,思わず気分も軽くなってしまいますが,ここまで晴天が続くと,今度は夏の水不足が心配になります。晴天が好きなはずなのに,晴天が続くと「梅雨らしい ...

READ MORE

我が国の刑事裁判は今なお絶望的である

私が中央大学を卒業した頃であっただろうか、今から40年ほど前、当時の刑事法の大家であった平野龍一先生が、「我が国の刑事裁判は絶対的である。」という言葉を残された。血気盛んなその頃の私は、師匠である渥美東洋先生の教えもあって、「そんなことはない。刑事司 ...

READ MORE

「逃走罪」は適用されず 量刑に影響か

今日は,「逃走罪」に関する記事です。 S容疑者は勾留手続きを終える前に逃げ出したため刑法の逃走罪は適用されないが、逃走の事実は裁判で不利に働く可能性が高く、逃走の“代償”は負うことになりそうだ。 S容疑者が逃走した7日午後2時16分の時点で、検察は警 ...

READ MORE

亀岡暴走事故を考える

今日は「亀岡事故」について考えてみたいと思います。 京都府亀岡市で昨年4月,集団登校中の児童らが車にはねられ,10人が死傷した事故で,自動車運転過失致死傷と道路交通法違反の罪に問われた少年(19)の控訴審初公判が21日,大阪高裁(森岡安広裁判長)であ ...

READ MORE

略式起訴不相当の判断の狙い

【警部補公判,地裁へ移送】―暴言事件,大阪簡裁が決定 大阪府警東署の警部補,T被告が任意で取り調べた男性に暴言を吐き自白を強要したとされる事件で,大阪簡裁は20日までに,事件を大阪地裁に移送して公判を開くことを決定した。【平成22年1月21日付/日本 ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー