亀岡暴走事故を考える

今日は「亀岡事故」について考えてみたいと思います。

京都府亀岡市で昨年4月,集団登校中の児童らが車にはねられ,10人が死傷した事故で,自動車運転過失致死傷と道路交通法違反の罪に問われた少年(19)の控訴審初公判が21日,大阪高裁(森岡安広裁判長)であり,検察側,弁護側の双方が量刑不当を主張した。

検察側は,懲役5年以上8年以下の不定期刑(求刑懲役5年以上10年以下)とした一審・京都地裁判決について「交通事故史上たぐいまれな重大かつ悪質な事案。遺族らは量刑に強い不満と怒りをあらわにしている」と主張した。一方,弁護側は「保護処分が相当」と訴えた。

被告人質問で少年は「非常に申し訳ございませんでした」と法廷の遺族らに頭を下げた。閉廷後の記者会見で,亡くなった松村幸姫さん(当時26)の父,中江美則さん(50)は少年の様子について「弁護人とのやりとりの中で言葉を選んでいるようにも思えた。憤りばかりだ」と話した。

一審判決によると少年は昨年4月,亀岡市の府道で無免許で居眠り運転し,10人を死傷させた(2013年8月22日02時09分 日本経済新聞)。

亀岡市で起こった交通事故から,1年以上が経過し,間もなく控訴審判決が下されるようです。妊婦を含めた10人もの方々が死傷された,誠に痛ましい事件です。亡くなられた方やご遺族の方々に,心より哀悼の意を表します。また,今もなお事故からの回復を目指して治療されている方々もおられると思います。少しでも早く回復されることを心よりお祈り申し上げます。

今回の事件では,「危険運転致死傷罪」ではなく,より軽い「自動車運転過失致死傷罪」が適用された点で,論争が巻き起こりました。無免許運転を常習的に行っており,長時間に渡るドライブの末に居眠り運転をした結果,10名もの人々を死傷させる事故を起こしたのだから,量刑の重い危険運転致死傷罪(刑法208条の2)が適用されるべきだという主張がされました。遺族の方々のこのような主張は,その無念さや悔しさからすれば,当然だと思います。

しかし,危険運転致死罪は、「アルコールや薬物で正常な運転が困難な状態で自動車を運転した」「車を制御困難な高速度で走らせた」、「進行を制御する技能を有しないで走らせた」等の事情で人を死なせた場合にのみ適用されることが明文で定められています。そのような「行為」が危険であり,法秩序を著しく乱すと法は考えているのです。10人死傷という「結果」は重大で被告人の刑事責任を判断する上で無視できませんが,「結果責任」だけで刑罰を考えることは出来ません。

確かに,少年は無免許運転を繰り返し,自己の直接原因は長時間運転による居眠りでした。特に,無免許運転は故意犯であり,居眠りという過失と違って悪質です。しかし,無免許運転であっても,日常的に事故を起こすことなく運転を繰り返していた少年は,「進行を制御する技能を有しない」とはいえないと判断されたのです。

遺族の方々の無念さは痛いほど理解できますが,危険運転致死罪という,道路交通法違反等との組み合わせによっては最高30年までの懲役が科される重い罪の適用については,慎重な議論が必要です。適用範囲が解釈によって安易に拡大されれば,その分,将来に渡って多くの国民が恣意的に厳罰を下されることにもなりかねません。現在,無免許運転の罰則強化や危険運転罪の適用範囲の拡大が法制審議会で議論されています。感情論に流され過ぎないよう,バランスの取れた慎重な議論が行われることを望みます。

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中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

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