実刑との中間刑「一部執行猶予」3年内に施行へ

皆さん,「7119」ってご存知ですか?事故や病気で救急車を呼ぶかどうか迷っているときに,こちらに電話すると,専門の医療相談員(医師や看護師)が相談に応じてくれます。緊急性が認められた場合に,救急車により搬送してくれるのだとか。本当に救急車が必要な人が,必要な時に救急車を利用できるように,まずは「7119」に電話をしてみるのも良いのかもしれませんね。

今日は「一部執行猶予制度」の話です。

受刑者を刑期途中で釈放し,実社会で立ち直りを図る「刑の一部執行猶予法」が13日成立し,3年以内にスタートする。

初めて刑務所に入る人や再犯傾向の強い薬物使用者らに保護観察を付け,支援施設での指導を通じて再犯防止につなげるのが狙いだが,「受け皿」は圧倒的に不足している。

◆更生重視へ転換 

「犯罪者を刑務所に入れることに重きを置いてきた刑事司法の大転換だ」。実刑と執行猶予の「中間刑」となる新制度の意義を,法務省幹部はこう強調する。

対象は主に,3年以下の懲役・禁錮刑で初めて刑務所に入る者と,覚醒剤などの薬物使用者で3年以下の懲役・禁錮刑が言い渡される者。「懲役3年,うち1年を2年の保護観察付き執行猶予とする」といった判決を出すことが可能になる。

これまでは「懲役3年」の実刑とするか,全部に執行猶予を付けるかだった。

新制度導入の背景には,検挙者に占める再犯者の割合(2011年は43%)の上昇がある。刑務所を出ても社会になじめないなどで犯罪を繰り返す者は多い。

今も,受刑者を刑期満了前に釈放する「仮釈放」制度はある。だが,現実には受刑者の半数ほどしか認められていない。また,仮釈放されても保護観察期間が平均5~6か月と短いため,更生に十分な時間を確保できないとの指摘があった(2013年6月14日10時09分 読売新聞)。

刑法が改正されて,新たに「一部執行猶予制度」が導入されます。執行猶予判決では軽きに過ぎ,実刑判決よりも一部の刑に執行猶予を付して社会内処遇によって改善更生を図る方が妥当な事案について,一部執行猶予判決を下すことになります。この制度の下では,特に再犯率の高い薬物関連事件について,薬物使用者には必ず保護観察が付くこととなりますし,保護観察所は薬物依存から脱却する専門的な訓練や治療を受けるように指示することができます。

再犯率の高い薬物使用者に,社会への適応力を身に付けさせることで再犯防止を図るべく,本制度が採用されたわけですが,重大な問題は残ります。すなわち,一部執行猶予の要件は,「3年以下の懲役または禁錮の言渡しを受けた場合」であるため,その適用範囲としては,これまで実刑となっていた事例の一部のみならず,これまで全部執行猶予となっていた事例にも適用されうることになります。現行法では実刑判決は重すぎるとして執行猶予判決が下されていた事案であっても,新制度の下では,実刑判決と執行猶予判決との「中間判決」ともいわれる一部執行猶予判決が下されるおそれがあるのです。そうすると,従来は問題なく(全部)執行猶予が付けられていた事案についてまで一部執行猶予を付す事例が多くなるのではないかという懸念もあり,実質的に刑の重罰化につながるおそれ生じてきます。

あくまでも薬物使用者の再犯防止が主眼なのですから,安易な一部執行猶予判決に流れることなく,既存の福祉・医療を通じた社会的援助方策を充実させるとともに,現行の仮釈放制度や保護観察制度の運用を見つめ直す中で,新制度との両立を図っていくべきでしょう。

「刑事司法」に関連する記事

犯人の証拠隠滅に弁護士が協力?

今日は「弁護士と証拠隠滅」について考えてみます。 愛知県警の警部への脅迫事件で逮捕された風俗店「ブルーグループ」の実質経営者S被告=脅迫罪などで公判中=が,別事件で勾留中の2011年夏ごろ,留置施設に接見に来た女性弁護士の携帯電話で,部下のグループ幹 ...

READ MORE

亀岡暴走事故を考える

今日は「亀岡事故」について考えてみたいと思います。 京都府亀岡市で昨年4月,集団登校中の児童らが車にはねられ,10人が死傷した事故で,自動車運転過失致死傷と道路交通法違反の罪に問われた少年(19)の控訴審初公判が21日,大阪高裁(森岡安広裁判長)であ ...

READ MORE

ネットなりすまし痴漢事件

今日は「インターネット掲示板でのなりすまし事件」について考えてみます。 女性になりすましインターネットの掲示板で痴漢を呼び掛けたとして,和歌山区検は29日,大阪国税局海南税務署員,I容疑者を県迷惑防止条例違反(卑わいな行為)で略式起訴した。和歌山簡裁 ...

READ MORE

一昔前の陪審裁判

いよいよ5月21日に始まる裁判員制度ですが、実は、国民が刑事裁判に参加するのはこれが初めてではありません。大正デモクラシーの影響を受けて、大正12年4月18日に公布された陪審法に基づく陪審裁判がそれです。 現行の裁判員制度に対する国民の評判は必ずしも ...

READ MORE

死刑事件における裁判員の苦悩

「私たちが死刑評決しました。」というタイトルのランダムハウス講談社から出ているドキュメンタリー本を最近読みました。 ちょうど私がアメリカ留学していた頃,毎日盛んにテレビで報道されていたスコット・ピーターソン事件の陪審員たちの物語です。 日本では今年か ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー