元警部補が証拠捏造…無関係の注射器を自ら調達

こんにちは。東日本大震災から2年と3カ月が過ぎました。しかし,被災地の住居問題,原発問題,雇用問題など,いまだに問題は山積しています。人間が持つ優れた能力の一つは,「忘れること」ですが,震災の記憶や被災地の現状だけは,風化させることなく,いつまでも私達一人一人の心に留めておかなければなりませんね。

さて,今日はまたしても証拠捏造の話です。

大阪府警堺署刑事課の係長だった60歳代の元男性警部補が2010年,薬物事件の証拠品として保管されていた注射器十数本がなくなったと思い,無関係の注射器を調達して証拠品にでっち上げていたことがわかった。

なくなったはずの注射器が別の場所から見つかり,証拠品捏造ねつぞうが発覚した。府警は証拠隠滅容疑も視野に捏造の経緯などを調べている。

捜査関係者によると,証拠品の注射器は05年,堺市堺区の路上で覚醒剤や拳銃とともに見つかった。

元警部補は10年春,同署刑事課に赴任。各事件の証拠品を点検中,問題の注射器がないことに気付いた。前任者らに所在を確認するなどしたが,見つからず,同じタイプの注射器を同じ本数調達したという。元警部補は昨年3月に退職。紛失したはずの注射器は今年になって見つかった。同課が全ての証拠品を一斉点検したところ,保管庫の段ボール内に,問題の事件で押収されたものであることが書かれた封筒があり,その中に入っていた。同署が元警部補に問い合わせたところ,捏造を告白したという(2013年6月11日10時28分 読売新聞)。

大阪府警で,またしても証拠捏造事件が発覚しました。責任追及を恐れて,必要のない嘘をつき,それを隠すために新たな嘘をつく。大阪府警で生じた一連の証拠偽造・虚偽調書記載事件では,責任追及を過剰に恐れ,組織内で戦々恐々として働く警察官の姿が見て取れます。

今回の事件では,元警部補は赴任後まもなく,証拠品の点検をしていたところ,注射器がないと思い込んだことに端を発しています。仮に一般企業で同様なことが起これば,自らの過失で紛失したものではないのですから,事実をそのまま上司に報告して,迅速に対応策を協議することで,必要最小限の損害に留めるよう全社的に努力したはずです。それにもかかわらず,今回の事件では,元警部補は,上司には報告せず,別の注射器を証拠品に仕立て上げてしまいました。その結果,捜査機関自身による証拠捏造という,刑事司法制度の根幹を揺るがすような重大事件に発展してしまったのです。

本来であれば,警察組織における内部的な責任追及も,国民の生命や財産を守り,公共の安全を維持するという警察の使命を全うするための手段にすぎません。「民主的理念を基調とする警察の管理と運営を保障し,且つ,能率的にその任務を遂行するに足る警察の組織を定めることを目的」(警察法1条)とする警察法の精神をもう一度見直し,警察組織の本来あるべき姿を取り戻してほしいものです。

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代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

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