冤罪根絶めざす市民団体設立へ マイナリさん支援者ら
さて,今日は冤罪についてのお話です。
東京電力女性社員殺害事件で昨年,再審無罪となったネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)を支援してきた「無実のゴビンダさんを支える会」(解散)のメンバーらが新たな市民団体「なくせ冤罪!市民評議会」の設立準備を進めている。
賛同人には,前日弁連会長の宇都宮健児さんや映画監督の周防正行さん,漫画家のやくみつるさんらも名を連ねており,8日に東京都内で設立総会を開く予定だ。
評議会では冤罪(えんざい)の原因を究明し,取り調べ全過程の録音・録画(可視化),証拠の全面開示など,誤判防止策の実現も目指す。
支える会で事務局長を務め,評議会の呼び掛け人でもある客野美喜子さん(61)は「(冤罪防止は)本来なら裁判所や検察が自分たちで取り組むべき課題だが,自浄作用がない。市民が変えていくしかない」と話す(2013年6月3日 日本経済新聞朝刊)。
「冤罪」とは,皆さんご存知の通り,犯罪とは無関係の人が,犯人として罪を着せられることをいいます。この冤罪により生じる被害は,想像を絶するものです。「法と正義」の名の下に,犯人ではないのに裁判所から事件の真犯人であると断定されるわけです。これほど怖いことはありません。これまで築いてきた名誉や社会的地位だけでなく,家族や恋人・友人との大切な信頼関係まで,罪なき罪によって,それら全てが一瞬で奪われてしまいます。時には,生命を奪われるおそれすらあります。
冤罪の大きな要因の一つと言われているのが,密室での取り調べによる自白の強要です。現に,再審無罪となった4人の死刑囚全員が,虚偽の自白で死刑判決を受けたことが明らかになっていますし,最近では,一連のPC遠隔操作事件でも,冤罪で逮捕された4人のうち2人は虚偽の自白をしているという事実も判明しています。精神的・肉体的に被疑者を追い込み,自白を獲得する。このような違法・不当な取り調べ方法は,一刻も早く改善されなければなりません。ですが,上記記事の客野美喜子さんが,「(冤罪防止は)本来なら裁判所や検察が自分たちで取り組むべき課題だが,自浄作用がない。」とおっしゃる通り,裁判所や検察の自発的な取り組みには,あまり期待はできません。
ここで,自白の強要を防止し,冤罪防止を図る一つの手段として期待されているのが,「取り調べ過程の全面可視化」です。全面可視化について,警察庁は,①取調官と被疑者間で信頼関係が築けなくなる,②被害者のプライバシー侵害のおそれがある点等を主張し,これに反対しています。しかし,信頼関係が築けなくなるという理屈がどれだけの根拠をもったものなのか明らかではありません。イギリスが10年以上も前に取調べの録音録画を始めたときもスコットランドヤードをはじめとする警察は同じような理由でこの制度に反対しました。しかし,実際に運用してみると,むしろ警察がこの制度を歓迎するようになりました。あからさまな嘘を言う被疑者の声や表情が証拠化され,訴追に有利だと言うのです。
いずれにしても,これだけ冤罪事件が増えた昨今の状況からして,取調べ録画録音制度の全面的な導入は,引き返すことの出来ない時代の要請であることは間違いありません。刑事裁判において,最も避けなければならないことは,無辜を罰しないことです。刑事弁護人にとって,冤罪防止こそが究極の宿命です。