「自分がやった」殺人の夫をかばった妻、不起訴

今日は「犯人隠避」に関する記事です。

東京地検立川支部は4日、東京都町田市、無職O容疑者(48)を殺人罪で東京地裁立川支部に起訴した。起訴状などによると、O容疑者は今年1月、八王子市のマンションの一室で、この部屋に住む男性(当時63歳)の首を両手で絞めるなどして殺害したとされる。また、地検立川支部は同日、「自分がやった」などと虚偽を述べて夫をかばったとして犯人隠避容疑で逮捕、送検されていたO容疑者の妻(45)を不起訴(起訴猶予)とした。同支部は「配偶者による犯人隠避は、任意的な刑の免除が認められるため」としている(2014年2月5日12時20分 読売新聞)。

刑法は,「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する」(刑法103条)と規定しています。本条にいう「隠避」とは,蔵匿以外の方法により官憲の発見・逮捕を免れさせる一切の行為をいい(大判昭和5・9・18),本件のような身代わり出頭の場合も「隠避」にあたります。
また,本罪は,親族間の任意的減免(刑法105条)が認められています。これは,犯人等の親族が,犯人等の利益のために犯人蔵匿等罪を犯した場合,期待可能性の程度が低く,責任が減少すると考えられているためです。簡単に言うと,親が子を庇い,妻が夫を庇うのは人間自然の感情であって,これを厳しく罰すべきではない,という理由です。単に庇うだけではなく,「自分がやった」として自ら罪をかぶろうとしたのが今回の事件です。殺人事件ですから,10年以上は服役を覚悟しなければなりません。
因みに,もし仮に真犯人の夫が妻に「身代わりになってくれ。」と頼んでいた場合には,夫には刑の減免の恩恵は与えられないというのが一般的な考え方です。そのような潔くない姑息な夫には同情できないからなのでしょう。

「司法制度」に関連する記事

尖閣諸島ビデオ映像の流出は罪か

尖閣諸島漁船衝突事件をめぐる映像流出事件で,検察庁や警視庁が捜査を始めました。那覇地検が政治的配慮により容疑者の船長を,半ば超法規的に釈放帰国させた以上,同事件のビデオ映像は,捜査資料という性質を超えて,政治性を帯びてきます。現に,野党を問わず全面公 ...

READ MORE

法相 性犯罪の罰則見直しを指示

今日は,「性犯罪の法定刑引き上げ」に関する記事です。 松島法務大臣はNHKなどとのインタビューで,性犯罪に対する刑罰について,「法定刑の引き上げを含めた罰則の在り方について早急な検討を指示した」と述べ,罰則の見直しを進める考えを示しました。 この中で ...

READ MORE

大阪地検特捜部検事が証拠改ざん?

今日の朝日新聞朝刊のスクープで,元厚労省局長の郵便不正事件に関し,大阪地検特捜部の主任検事がFDの最終更新日時を改ざんしていたと報道されました。 信じられないことです。検事調書の「作文問題」とは比較にならないほどのスキャンダルだと思います。FDという ...

READ MORE

我が恩師,渥美東洋先生

渥美東洋先生がご逝去された。 唯一,僕の恩師といえる先生である。 僕は中央大学法学部,渥美東洋先生の刑事訴訟法ゼミ21期生である。 とにかく中央大学で一番入るのが難しいゼミで,かつ,司法試験合格率がとても高いゼミだった。 渥美東洋先生の刑事訴訟法ゼミ ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー