毒ギョーザ事件の犯人,中国で逮捕

中国製冷凍ギョーザによる中毒事件で,製造元である中国の天洋食品の元臨時従業員が逮捕されたとの報道がありました。
逮捕容疑は,中国刑法の「危険物質投入罪」という公共危険罪の一種が適用となったようです。
日本の刑法で言えば,刑法第144条の「浄水毒物等混入罪」のようなものでしょうか。

この「危険物質投入罪」がどの程度の罪の重さなのかは定かではありませんが,
重大な被害を及ぼさなかった場合で,懲役3~10年,
死者や重症者が出た場合で,懲役10年以上か無期,
かつ社会的影響が大きい場合は死刑もありうる
とのことです。

これは中国の自国の法による処罰です。
中国の自国の法による処罰としては,中国刑法には殺人・殺人未遂の国外犯規定がありますから,
殺人未遂でも処罰できます。

ここで,少し説明が必要です。
国外犯規定とは何かといいますと,中国人が外国(日本)で犯罪を犯した場合であっても中国の刑法を適用して処罰することを言います。
今回の毒ギョーザ事件では,中国では死者は出ていません。また,毒ギョーザを食べて死にそうになった人も中国では出ていません。
被害は,日本の千葉県と兵庫県の消費者です。重傷者もいます。
通常,中国国内で殺人,殺人未遂等の被害が出ていない以上,外国で犯罪を犯した中国人は中国に帰ってきても殺人や殺人未遂では処罰されないのですが,それ では国際的信用を失うので,中国では国外犯規定を置いています。たとえ外国で犯罪を行ってもその犯人が中国人であれば処罰するという規定です。
日本にも同じように刑法に国外犯規定があります。だからこそ,三浦和義はロス事件で日本で裁判にかけられました。

このように,中国刑法では,たとえ殺人や殺人未遂の結果が中国国内で発生していなくても,その犯人が中国人であるならば,中国刑法で処罰できるのです。
その例は,福岡県の一家4人殺害事件で,犯人の中国人が中国国内で, 日本における殺人により裁判を受け死刑となり執行されました。

ですから,今回は,当初は逮捕容疑は「危険物質投入罪」ですが,今後,殺人未遂でも中国捜査当局は捜査する可能栄は残っています。

また,日本の警察庁も,代理処罰を中国に要請し,殺人未遂での代理処罰を中国に求めていくでしょう。

ところで,「代理処罰」についても説明しておきます。
代理処罰とは,日本国内で犯罪が行われ,犯人が日本国外,例えば中国に逃亡した場合に,もし中国との間に「犯罪人引き渡し条約」が締結されていれば,その 条約に基づき,犯人の引き渡しを要請し,拘束し,引き渡してもらった後で,日本で処罰すれば良いのですが,中国とは「犯罪人引き渡し条約」は締結されてい ません。
そこで,日本としては,日本の警察が中国にのりこんでいって犯人を逮捕するわけにはいきませんので(主権侵害になります),中国に対し,日本の代わりに, 中国の自国の法で処罰して欲しいと要請するわけです。
もちろん,これに中国が応じるかどうかは専ら中国が判断しますが,少なくとも,現時点で,中国は「危険物質投入罪」で処罰する意思はあるようです。
今後,日本の警察は,「危険物質投入罪」と(日本が適用を予定している)「殺人未遂罪」とで,どちらが刑が重いのかを見極めながら,さらに,「殺人未遂 罪」での代理処罰を求めるかどうかを判断していくものと思われます。

因みに,仮定の話ですが,この犯人の中国人が偶々日本にやってきた場合には,日本の警察はこの中国人を逮捕し所処罰できるでしょうか?できます。たとえこ の中国人の犯人が中国国内の工場で毒を入れたとしても,その結果が日本で発生している以上,これは日本にとって「国外犯」ではなく,「国内犯」だからで す。日本の刑法の「殺人未遂」が適用されるのです。

「事件」に関連する記事

陸山会問題その2

石川議員が逮捕されました。 平成16年10月29日に購入した世田谷区の土地取引を巡る問題で収支報告書への虚偽記載が疑われています。 当初は小沢幹事長サイドでは銀行融資で得た4億円を土地購入原資に充てたと説明していました。 しかし,実際には,10月29 ...

READ MORE

小沢聴取と検察官認知

東京地検特捜部は,23日土曜日に小沢幹事長の任意の事情聴取を行います。 これはどのような事情聴取なのでしょう。 今回の土地取引問題をめぐる収支報告書の虚偽記載事件は,石川議員や大久保容疑者らが刑事告発されています。 ですから,被告発者であり,被疑者で ...

READ MORE

特捜部に「武器」を

2月4日,東京地検特捜部は石川氏ら3名を政治資金規正法違反で起訴すると同時に,小沢氏を嫌疑不十分で不起訴処分としました。共謀を問うだけの証拠がない,ということらしいです。 陸山会の土地取引をめぐる不記載問題について,共謀を基礎づける上で重要なポイント ...

READ MORE

小沢幹事長,不起訴方針?

毎日新聞などが報道していますが,小沢幹事長が不起訴方針のようです。 予想が外れましたね。。。 てっきり明日在宅起訴と思っていました。 というのは,特捜部の動きは起訴に向けての動きだったからです。 はじめから不起訴なら二度の事情聴取なんてしません。 1 ...

READ MORE

コースター事故での謝罪会見について

【ドーム側 会見で謝罪】 東京ドームシティアトラクションズを管理・運営する東京ドーム(東京都文京区)は30日に記者会見を開き,専務取締役営業本部長が「亡くなられたお客様とご家族におわび申し上げます。原因を究明し,二度と事故が起きないよう努力していく所 ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー