更生保護システム

今日は「更生保護」について取り上げます。

法務省は25日までに,万引きや無銭飲食など比較的軽い罪で起訴猶予処分が見込まれる容疑者に保護観察官が面談し,社会復帰を支援する取り組みを,全国7カ所の保護観察所で10月から試行すると発表した。

7カ所は仙台,福島,水戸,富山,広島,高松,熊本の各保護観察所。軽微な犯罪を繰り返す「累犯障害者」を生まないようにするのが目的。これまでは起訴猶予処分後に面談していたため,時間的制約から受け入れ先の確保が困難だった。

法務省保護局によると,制度の対象は知的障害がある容疑者や高齢の容疑者。検察官が,処罰するよりも福祉につなげたほうが本人の更生に役立つと判断した場合,本人の同意を得て保護観察所に連絡。保護観察官が起訴猶予処分の数日前から面談し,民間の更生保護施設や金銭貸与制度などの福祉サービスを紹介する。

累犯障害者の再犯防止対策を巡っては,仙台,大津,長崎の3地検で,福祉の専門家らでつくる「障がい者審査委員会」の助言を刑事処分の判断材料とする試みを進めている。東京地検は社会福祉士を採用し,アドバイスを受けている(2013年9月25日11時35分 日本経済新聞)。

更生保護法1条は,「犯罪をした者及び非行のある少年に対し、社会内において適切な処遇を行うことにより、再び犯罪をすることを防ぎ、又はその非行をなくし、これらの者が善良な社会の一員として自立し、改善更生することを助けるとともに、恩赦の適正な運用を図るほか、犯罪予防の活動の促進等を行い、もって、社会を保護し、個人及び公共の福祉を増進することを目的とする。」と規定しています。犯罪をした人は,「施設内処遇」と「社会内処遇」という形で,処遇を受けることになりますが,このうち,「施設内処遇」は,刑務所などの刑事施設や少年院で行われるものです。そして,今回の記事で取り上げられている更生保護システムは「社会内処遇」に分類されます。刑務所内で矯正を図るよりも,実際に社会に復帰させたうえで更生を図り,再犯を防止させる方が,本人にとっても社会全体の利益にとっても良いと判断された場合に,社会内処遇が行われるのです。

ここ30年間で60歳以上の検挙人員数が約7倍に増加し,新受刑者の約25%に何かしらの障害を抱えている疑いがあるなど,犯罪をした人の中に,高齢者や障害を抱えた人が,近年急増しているそうです。景気が低迷し,ただでさえ就職先を見つけるのが難しい現代社会にあって,犯罪をしてしまった人が,出所後に定職を見つけることは困難を伴います。高齢者や障害を抱えた人ならば,殊更でしょう。短期的な仕事さえも見つからない場合には,日々の生活資金も確保できず,結果として,窃盗を行って飢えをしのぐなど再犯に及んでしまうこともあります。これを裏付けるように,無職の刑務所出所者等の再犯率は,有職の者と比べて約5倍にも及ぶというデータもあります。このような悪循環を断ち切り,彼らの社会復帰を支援するために,更生保護施設等による就労支援や雇用確保に向けたシステム構築がとても重要なのです。

弁護士や検察官などの法曹関係者は,逮捕されてから裁判にかけられ,判決を下されるまでの刑事手続きの過程について特に強い関心を持ち,その後,犯罪をした人がいかにして社会復帰を果たすかという点については,あまり目を向けてきませんでした。民間の更生保護施設を運営する方の話では,施設に弁護士が訪ねてきたことは今まで一度もないともおっしゃっていました。今回の記事では,起訴猶予処分を受けた人の中でも,知的障害を抱えた方や高齢の方を対象に,社会復帰支援をするシステムの試運転をするとのことです。弁護士も,依頼者が犯した犯罪の防御,寛刑処分の獲得という本来の活動に付随して,若しくは,一体となって,再犯防止のための福祉環境の整備という視点でも貢献が求められていると思います。そのような環境整備が,ひいては依頼人の刑事処分にも大きな効果を上げられると思うからです。いずれもしても,彼らが無事に社会復帰を果たし,今後二度と同じ過ちを繰り返さないよう,社会内で安定した地位を確立するまでサポートできるような更生保護ネットワークの構築が,より充実したものになることを願っています。

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