ピンクパンサー逮捕・送還

銀座の宝石店の強盗傷害事件の容疑者として,国際窃盗団”ピンクパンサー”のメンバーがスペインで身柄を拘束され,日本に送還されました。
スペインと日本との間には犯罪人引渡条約は締結されておらず,外交ルートを通じての送還の実現でした。
実は,日本が現在,犯罪人引渡条約を締結している国は,アメリカと韓国の2国だけです。そして,中国と条約交渉中です。この締約国数は非常に少ないです。アメリカが100か国以上との間で条約を締結しているのと比べればその少なさは歴然としています。
どうして,少ないか?

いかなる場合に犯罪人を要請国に引き渡すかに関する考え方として,2つの考え方・法制度があります。ひとつは,条約がある国に対してのみ犯罪人を引き渡すという条約前置主義を採る国のグループ(Aグループと言うことにします)と,必ずしも条約がなくても引き渡しを認める国のグループです(Bグループということにします)。アメリカなど英米法の国々はAグループに属し,日本はBグループに属します。日本は,条約を締結していない国から犯罪人の引き渡しを要請された場合にあっても,一定の条件が満たされれば引き渡す運用をしているのです。ですから,多くの国々とわざわざ条約を締結する必要がないという事情がありました。しかし,その逆に,日本で犯罪を犯した者が海外に逃亡した場合,もし逃亡先の相手国がAグループに属する国の場合,引き渡しを実現することは不可能になってしまい,不処罰といった不正義の結果となります。
今回,ピンクパンサーはスペインから移送されました。偶々,スペインがBグループに属する国だったからです。これがもしAグループに属する英国のような国であったならば,日本と英国との間で犯罪引渡条約は締結されていないので,引き渡しは実現しなかったのです。
今後,このようなグローバルな犯罪組織に対抗するためにも,犯罪人引き渡し条約の締結国を増やしていく必要性は大きいでしょう。

刑事事件 弁護士 中村勉

「司法制度」に関連する記事

公器を思う

私の趣味の一つに就寝前にDVDを見るというものがある。 歴史ものが好きで,これまで織田信長,西郷隆盛,新撰組,大村益次郎などを扱った大河ドラマなどを見たが,就寝前に,しかもベッドに横になって見るのが好きである。 DVDプライヤーは小型のもので,それを ...

READ MORE

中国で日本人死刑囚の死刑執行通告

中国で日本人死刑囚の死刑執行が通告されました。 4人の日本人死刑囚の執行が通告され,うち一人は今日にも執行されるとのこと。 いずれも覚せい剤2.5キロから3キロあまりを日本に密輸しようとしたという,麻薬密輸の罪。 中国では麻薬密輸は50グラムを超える ...

READ MORE

司法試験「5年で3回」を「5年で5回」に緩和

今日は「司法試験制度」に関する記事です。      政府は、司法試験の受験回数制限を現行の「5年で3回」から「5年で5回」に緩和することを柱とした司法試験法改正案を、1月召集の通常国会に提出する方針を固めた。司法試験の合格者数の増加につながりそうだ。 ...

READ MORE

良い起訴状と変な起訴状

私が検察官であったころ,事件捜査に携わり,証拠を収集して被疑者を起訴していましたが,よく決裁官の指導検事に 「良い起訴状というのは安心だ。一読してなるほどそういう事件かと思わせる起訴状が良い起訴状だ。これは安心して決裁できる。しかし,一読して変な起訴 ...

READ MORE

法廷で無断録音,ネットで公開

今日は「裁判の公開」について考えてみましょう。 威力業務妨害事件をめぐる大阪地裁の法廷でのやり取りが無断録音され,動画サイト「ユーチューブ」で半年以上にわたり公開されていることがわかった。録音を原則禁じた裁判所法に触れる疑いがあり,地裁は削除を求める ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー