職権探知主義と前田元検事の調書採用

小沢一郎民主党元代表の資金管理団体「陸山会」の収支報告をめぐる政治資金規正法違反で,東京地裁の裁判長が職権により前田元検事が作成した被告人大久保隆規の検事調書が証拠採用されました。

刑事裁判の原則は,当事者主義といって,当事者である検事や弁護士が請求した証拠についてのみ裁判所が採否の判断をするのです。これに対し,当事者の請求に縛られずに,裁判所が真実発見のために証拠を使用して取り調べていく法制を「職権探知主義」と言います。

この前田元検事の検事調書は,同元検事の不祥事を受けて検察官が証拠請求をしていませんでした。ですから,当事者主義の原則からいうと,公判で取調べられることはありませんし,マスコミもそのように予想していたのではないでしょうか。

ところが,それを裁判所が職権により,証拠採用したのです。
もとより,当事者主義刑訴法を標榜する現行法にあっても,一部補充的に職権主義の余地を残しています。例えば,刑訴法298条2項で職権証拠調べが認められているのです。今回の前田元検事の調書を証拠採用したのは,この条文が根拠になります。

問題は,裁判所があえて職権探知主義を発動してまでも前田元検事の検事調書を採用した意図はどこにあるかです。この調書の内容は事実関係を認める内容であって,信用性はともかく任意性には問題がない調書に見受けられます。裁判所の心証が有罪に傾いているような気がします。

「司法制度」に関連する記事

なぜ共犯事件では弁護士は検事より弱いか(1)

捜査妨害と利益相反について考えましょう。 私が検事だったころ、こういうことがよくありました。 5人を逮捕した暴力団による共犯事件ですが、全員否認、全員に同じ一人の弁護士がついていた事件です。 複数の被疑者に一人の弁護士がつくことはよくあることでした。 ...

READ MORE

法廷で無断録音,ネットで公開

今日は「裁判の公開」について考えてみましょう。 威力業務妨害事件をめぐる大阪地裁の法廷でのやり取りが無断録音され,動画サイト「ユーチューブ」で半年以上にわたり公開されていることがわかった。録音を原則禁じた裁判所法に触れる疑いがあり,地裁は削除を求める ...

READ MORE

押尾学裁判

押尾学被告人の裁判が佳境を迎えつつあります。 報道を見る限りでの感想ですが,次のようなことが言えます。 ① 検察官は押尾被告人の事後的な偽装工作からその証言の信用性を弾劾していますが,裁判官・裁判員にかなり効果的だと思います。そこから伺われる保身と無 ...

READ MORE

刑事法ローヤーの35年前

恩師渥美東洋先生が亡くなって,しんみりしてしまいました。 古箱をひっくり返し,恩師の思い出を探していたら,昔父に出した手紙を掘り出しました。 消印は1979年8月28日。 今から35年前の「僕」だ。札幌の予備校の寮に入り,大学受験浪人生活をしていたこ ...

READ MORE

司法試験「5年で3回」を「5年で5回」に緩和

今日は「司法試験制度」に関する記事です。      政府は、司法試験の受験回数制限を現行の「5年で3回」から「5年で5回」に緩和することを柱とした司法試験法改正案を、1月召集の通常国会に提出する方針を固めた。司法試験の合格者数の増加につながりそうだ。 ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー