示談の利益を奪う千葉地検の事件処理

千葉地検刑事部では,ここ最近,痴漢等の条例違反事件で,送検時の在庁略式罰金処分が目立つ。
在庁略式は,従前,住居不定の者など,のちに出頭確保が困難な者や罰金命令が郵送で届かない者について行われる慣行であった。
それが,千葉地検刑事部では住居のしっかりしている者まで処分保留で釈放することなく,送検当日に在庁罰金を科している。

こうした千葉地検の法運用には,本人はもとより家族の反発が強い。
本人や家族にしてみれば,処分保留で釈放してもらい,被害者と示談が成立すれば不起訴処分となる利益がある。
誰しもが前科を嫌うものである。罰金も前科である。不起訴なら前科にならない。
幼い子供がいる妻は,子供の父が前科者になったことにショックを隠さない。
大切に子供を成人させた両親は,たった一度の過ちで子供が前科者になったことにやるせない思いを抱く。

犯行後,悔悛悔悟し,被害者に謝罪し,示談を成立させ,被害回復をして不起訴処分にしてもらう。
これは起訴便宜主義をもつ我が国検察特有の人情味のある良い制度であった。
そしてまた,こうした法運用は,被害回復にも資する。
被疑者の弁護人は示談をし,被害回復に努めるからである。
略式在庁で罰金刑に処せられた場合,被疑者は刑が確定したことで被害弁償に消極的になる。
その結果,被害回復されるケースが少なくなり,被害者は泣き寝入りとなるのである。

被害者とともに泣く検察ではなかったか。
被疑者の更生を願う検察ではなかったか。
出世を考え,監査で釈放未済を指摘されたくないのか。
罰金刑を増やして点数稼ぎをしたいのか。
それとも国庫を潤して国家に経済的に貢献したいのか。

形式的な必罰主義は,古き良き検察の終焉を意味する。

「司法制度」に関連する記事

適塾としてのNICDサマーアソシエイト制度

NICDでは,創設以来,サマーアソシエイト制度を実施していて,これまでに確か18人ほどのOBを送り出しています。 4大等の同種制度と違って,研修期間は比較的長く,第1期などは丸々2か月間,最近でも2週間となっています。 しかも,NICDのサマーアソシ ...

READ MORE

実刑との中間刑「一部執行猶予」3年内に施行へ

皆さん,「7119」ってご存知ですか?事故や病気で救急車を呼ぶかどうか迷っているときに,こちらに電話すると,専門の医療相談員(医師や看護師)が相談に応じてくれます。緊急性が認められた場合に,救急車により搬送してくれるのだとか。本当に救急車が必要な人が ...

READ MORE

刑事訴訟法等の一部を改正する法律案が提出!

平成27年3月13日,第189回通常国会において,「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が提出されました。この法案は,昨年9月に,法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」が法相に答申し,その後,3月13日に内閣が閣議決定したものです。政府与党は今国 ...

READ MORE

国士としての刑事弁護士

検察官は,犯罪を摘発訴追し,刑罰を科して国家の治安を守る。 犯罪者を訴追処罰するという治安維持作用は、専制国家、独裁国家、民主国家に共通する国家作用であり,共通する国家使命である。 しかし、無辜を処罰してはならないという使命は道義国家のみに固有の使命 ...

READ MORE

念頭に思うー近代合理主義の功罪

エマニュエル・カントに代表される近代合理主義思想にあって,「目的」と「手段」の概念的な分離は近代社会樹立にとても重要な役割を果たしていると思う。 カンティアンの神髄は,私もそうであるけど,道徳的に自立した存在である他人を「手段」にしてはならず,それ自 ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー