陸山会問題その2
石川議員が逮捕されました。
平成16年10月29日に購入した世田谷区の土地取引を巡る問題で収支報告書への虚偽記載が疑われています。
当初は小沢幹事長サイドでは銀行融資で得た4億円を土地購入原資に充てたと説明していました。
しかし,実際には,10月29日午前に土地代金が支払われており,融資が実行されたのは同日午後とのことです。
当然,支払いにあてられた3億4000万円は,別のお金を原資としたということになります。
それを石川議員は「小沢幹事長のタンス預金が原資だ。」と特捜部に説明しました。
そこで特捜部は小沢幹事長に任意事情聴取の要請を行いました。
石川議員はこの土地取引に関する収支に関し,平成16年分の収支報告書には記載せずに,翌年の平成17年分の収支として平成18年3月に提出した収支報告書に記載し,この外形的事実は認めているので,平成16年分,17年分の政治資金規正法違反はそれだけで立件可能でした。
原資がやや不明であっても,政治資金規正法は形式犯ですから,わざわざ現職の国会議員を逮捕してまで立件するような罪名ではありません。
それではどうして逮捕したのでしょう?
いくつか理由が考えられます。
1.現に進行中の大久保被告の西松建設事件の側面援護射撃:
大久保被告の事件では,弁護人はその冒頭陳述で2点を基に検察を批判しています。第一に,裏金の不記載という悪質事案ではなく,寄付者の不記載に過ぎず,お金の透明化自体は図っており軽微事案だ。第二に,不記載額も3500万円に過ぎず,通常1億円を超えたケースを立件する過去のケースと比較して不当だ。つまり国家権力の濫用だ(公訴権濫用)と批判しています。
今回の土地取引問題では,石川議員だけではなく,大久保被告が関与していますので,すでに起訴済みの大久保被告の西松に関連した虚偽記載額に上乗せされて違反額が増額されます。訴訟手続き的には訴因変更となります。これで,弁護人の批判のうちの上記第二の批判をクリアできます。
それでは弁護人の上記第1の批判はどうでしょう?
2.裏金の不記載立件に自信?:
ここで浮上してきたのが,ゼネコン水谷建設の丹沢ダム受注に絡む謝礼の裏献金5000万円疑惑です。
石川議員自身が通帳に記した「住」というメモは秘書住宅用の今回の土地取引原資をうかがわせるものです。
この「住」との印の書いた通帳の額5000万円が平成16年10月18日(月曜日)に陸山会口座に入金となっているのですが,水谷建設の関係者の供述によると,同年10月15日(金曜日)午後に都内ホテルで石川議員(当時秘書)に現金5000万円を手渡したと供述しているのです。しかし,石川議員はこれを否定しています。
証拠について考えてみます。
石川議員が陸三会の口座に10月18日に入金した5000万円が土地購入代金の原資の一部になっているという証拠は,おそらく「住」との通帳へのメモ書きで十分だと思います。これでその5000万円と土地購入代金原資との紐付けはOKです。
問題は,仮に水谷建設の関係者の上記証言が真実だとしても(特捜部はその真実性に自信をもっていると思われます),その石川議員にホテル内で手渡した5000万円と,石川議員が週末をはさんで週明けの月曜日18日に陸三会の口座に入金した5000万円の現金が同一のものか,という紐付けです。確かに金曜日に受け取って週明けの月曜日に同額を入金しているのですから同一であるという推理はできますが,そうした曖昧な推理だけで石川議員を逮捕するとは思えません。おそらく,1月13日の一斉捜索でその紐付けを可能とする何らかの明確な客観的な証拠を得ることができたのだと思います。というのは,通常,特捜部のやり方としては,捜索と逮捕は同時にやります。しかし,1月13日には石川議員逮捕に踏み切っておらず,その2日後の15日に逮捕しました。これは13日の捜索で何らかの新証拠を確保したことをうかがわせる検察の動き方です。
もし今回の石川議員の逮捕で,石川議員が水谷建設の関係者の証言にそう内容の自白をし,裏金が土地購入原資に使われた事実が明らかになり,かつ,その裏金が不記載となっていたということになると,大久保被告の西松建設の事件で弁護人が展開していた上記第1の批判も検察はクリアすることができるのです。
しかし,私は特捜部が単にすでに進行中の刑事裁判の側面支援だけが動機でこのように大胆に動いているとは思えません。特捜部の最終的なターゲットは,銀行融資と裏金の動きの関係の解明にあると思っています。なぜわざわざ銀行融資を受けたのか,なぜ一年の期ズレで収支報告書に土地取引の収支を記載したのか,などを今後特捜部は解明することになるでしょう。