特捜部に「武器」を

2月4日,東京地検特捜部は石川氏ら3名を政治資金規正法違反で起訴すると同時に,小沢氏を嫌疑不十分で不起訴処分としました。共謀を問うだけの証拠がない,ということらしいです。

陸山会の土地取引をめぐる不記載問題について,共謀を基礎づける上で重要なポイントが時系列的にみて2つあります。
ひとつは,土地購入時,もうひとつは収支報告書提出時。

土地購入時の小沢氏の関与については,検察はいいところまで追い込んでいたと思います。
・土地の選定
・土地利用目的
・銀行融資手続
などです。銀行融資関係書類には小沢氏のサインまであるとのことです。

問題は,この小沢氏の関与を示す証拠が散りばめられている土地購入の時点で,翌年3月末までに提出する収支報告書の記載内容についてまで「共謀」するか,です。

収支報告書は年末に会計が閉められて,年明けから作成作業を始めます。
普通の会社のように,帳簿をその都度その都度記帳していればいいのですが,そうではない場合,年明けになってはじめて何を収支報告書に記載し,何を記載しないかを決めることになります。
石川議員は,この時点で不記載の意思決定をした可能性があります。
そうすると,いくら土地購入時点で小沢氏の関与が見え隠れしたところで,この年明けの収支報告書作成の時点での小沢氏の積極的かかわり,例えば,指示,報告了承などがないと,不記載の「共謀」を問うことは非常に難しいです。

特捜部は,土地購入時点における小沢氏の関与や石川議員の報告などはある程度明らかにできたものの,収支報告書作成時点の「不記載」に関する指示・報告了承の証拠を固めきれなかったのではないでしょうか。
仮に小沢氏個人の4億円が原資であることを隠す目的で,銀行融資で4億円を借り入れ,そのことについて小沢氏の「了承」があったとしても,だからといって収支報告書にそれを不記載とすることの了承にはなりません。収支報告書には,銀行融資の4億円を「記載」することだってできたはずですから。
なぜそれすら記載しなかったのか,が問題なのです。
その理由を石川議員は,「代表選までに小沢氏が大金を動かしていることを表に出したくなかった。」という趣旨の供述をしているとのことです。それと同じ動機で小沢氏本人が石川氏に「不記載」を指示したか,ないし,了承したかが問題なのです。
そこを詰め切れなかったのでしょう。

もともと収支報告書の不記載で小沢氏の刑事責任を問うのは筋的に困難であったのかもしれません。

いずれにしても,特捜部に「誤算」があったと思います。
3人を逮捕し,取調べれば小沢氏を立件するだけの供述や証拠が得られるはずだという,「供述」に頼ったがゆえの「誤算」です。
検察には武器が足りないのかもしれません。

ただでさえ取調べの可視化が叫ばれる昨今ですから,特捜部も「供述」録取に頼る捜査手法から,次の新しい捜査手法に移行していく必要性を感じます。
「司法取引」,「盗聴」。。。
などの導入を真剣に検討すべきです。

「検察だけが正義ではない」と声高に言う人がいますが,検察が正義ではない社会は暗黒社会です。

「事件」に関連する記事

医療過誤と刑事責任

神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)で2008年,乳がん手術を受けた40代の女性患者に医療ミスで脳障害などを負わせたとして,業務上過失傷害罪に問われた当時の麻酔科医の男性被告(44)に,横浜地裁は17日,無罪判決(求刑罰金50万円)を言い渡した。 判 ...

READ MORE

偽装献金問題

鳩山総理の偽装献金問題で,東京地検特捜部は,元第一秘書を政治資金規正法違反(虚偽記載)で起訴し,政策秘書および資金管理団体の代表である鳩山総理については,嫌疑不十分として不起訴とする方針を固めたようです。鳩山総理は自らの関与を否定する上申書を提出する ...

READ MORE

資金管理団体

民主党幹事長小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地取引を巡って政治資金収支報告書への虚偽記載が問題となっています。当時,東京地検特捜部は,小沢氏の秘書で会計事務担当であった現民主党衆議院議員石川知裕氏への事情聴取に踏み切りました。 この政治資金規正法と ...

READ MORE

小沢氏捜査で「不起訴不当」議決

小沢氏の収支報告書の虚偽記載問題で,第1検察審査会は,07年分について不起訴とした東京地検の判断に関し,「不起訴不当」と議決しました。 既に,04年分と05年分については,第5検察審査会が「起訴相当」との議決を出し,これを受けて再捜査をした東京地検が ...

READ MORE

少年事件の刑の厳罰化に思う

今日は少年に対する刑罰についての話です。 茨城県稲敷市の利根川河川敷で昨年9月,同市光葉,無職湯原智明さん(当時20歳)を集団暴行で死亡させたとの傷害致死罪などに問われた同市の無職少年(18)の裁判員裁判で,水戸地裁は27日,懲役5年以上8年以下(求 ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー