「逃走罪」は適用されず 量刑に影響か

今日は,「逃走罪」に関する記事です。

S容疑者は勾留手続きを終える前に逃げ出したため刑法の逃走罪は適用されないが、逃走の事実は裁判で不利に働く可能性が高く、逃走の“代償”は負うことになりそうだ。

S容疑者が逃走した7日午後2時16分の時点で、検察は警察から身柄の送致を受けたばかりで、勾留を裁判所に求める手続きを完了していなかった。

逃走罪が適用されるのは、勾留中の容疑者や被告、もしくは刑が確定して服役中の受刑者が身柄が置かれている施設から逃走した場合だ。平成24年1月に広島刑務所から逃亡した中国籍の受刑者には、同罪が適用された。

こうした状況から、逃走容疑での現行犯逮捕はできない上、1度目の逮捕状は執行されて効力を失っていることから、捜査当局は集団強姦容疑などでの逮捕状を再取得し、S容疑者の行方を捜していた。

S容疑者は、逃走した行為自体は罪に問われないが、集団強姦などの罪で起訴された場合、裁判での情状面で不利に働く可能性が高い。検察幹部は「勾留される前に逃走した事実は重い。当然、量刑にも影響してくるだろう」と話している(2014.1.9 20:46産経新聞)。

逃走罪(刑法97条)は,裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走した場合に成立します。本条にいう,「未決の者」とは,勾留状によって,刑事施設又は留置施設に拘禁されている被告人又は被疑者をいい,逮捕された者は含まれない(札幌高判昭和28・7・9)と解されています。したがって,記事にも書かれているように,勾留を裁判所に求める手続きを完了していなかった今回の場合,逃走罪の適用はありません。
本結論は,捜索に多くの人員や費用を割き,近隣の住民を不安に陥らせたことなどからすると,納得できない方も多いと思います。しかし一方で,今回の一事をもって適用範囲が安易に解釈によって拡大されることも避けなければなりません。
今回の事件を契機に,改めて慎重な議論がなされることを望みます。

「刑事司法」に関連する記事

オウム3死刑囚を証人尋問へ…平田被告の公判で

今日は「オウム事件」の話です。 オウム真理教の目黒公証役場事務長拉致事件などで起訴された元教団幹部・平田信まこと被告(48)の公判前整理手続きが17日,東京地裁であり,斉藤啓昭ひろあき裁判長は,井上嘉浩死刑囚(43)ら元教団幹部の死刑囚3人の証人尋問 ...

READ MORE

米原タンク殺人事件報道に思う

米原で会社員の若い女性が何者かに襲われ、汚泥タンクに投げ込まれて殺害された事件で、容疑者として会社員が逮捕されました。もちろん、殺人ですから、裁判員制度の対象事件です。 私は”報道を見る限り”犯人は逮捕された会社員に間違いないと思います。

READ MORE

少年事件の刑の厳罰化に思う

今日は少年に対する刑罰についての話です。 茨城県稲敷市の利根川河川敷で昨年9月,同市光葉,無職湯原智明さん(当時20歳)を集団暴行で死亡させたとの傷害致死罪などに問われた同市の無職少年(18)の裁判員裁判で,水戸地裁は27日,懲役5年以上8年以下(求 ...

READ MORE

刑罰と最新科学

【性犯罪前歴者にGPS】― 携帯義務付け 宮城県が条例検討 宮城県は22日,性犯罪の前歴者やドメスティックバイオレンス(DV)の加害者に対して,行動を警察が監視できるように全地球測位システム(GPS)の常時携帯を義務付ける条例設定の検討に入ったことを ...

READ MORE

事件と無関係の女性宅を間違って捜索…大阪府警

今日もまた「大阪府警」のお話です。 大阪府警生活環境課が6月,同府豊能町の山林を無許可で切り開いたとして森林法違反容疑などで町内の建築会社などの強制捜査に着手した際,事件とは無関係の女性(73)宅を捜索していたことがわかった。 法人登記簿に記載の同社 ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー