足利事件―弁護過誤はないのか
4歳の女児が誘拐・殺害された「足利事件」において、無期懲役の有罪判決が確定し、17年間も服役していたSさんが釈放されました。再審で無罪となる可能性が高いといいます。
この問題は、DNA鑑定に注目が集まっていますが、専門家の私としては、なぜ自白したのか、自白させられたのかに強い関心があります。新聞報道によると、任意同行当日の警察での取調べが極めて過酷で、「刑事の責めが激しく」身に覚えのない犯行を自白してしまったといいます。密室での、外部との交通を遮断されての取調べが非常に厳しいものであり、容疑者に絶望感を与えるものであることは確かであり、そのときの状況は私には想像することができます。この点、高等検察庁や警察庁・県警が今回の事件について取調べを含む検証を開始したようで、その検証結果報告が待たれます。
ただ、仮に捜査機関による検証が行われ、冤罪を生んだ捜査構造を解明できたとしても、なおも疑念は残ります。というのは、Sさんは、捜査が終わった後も、第一審が開始された後も、途中まではなおもその虚偽の自白を維持していたことです。弁護士は何をしていたのでしょう?なぜ弁護士は真実を自分の依頼者から聞きだすことができなかったのでしょうか?なぜ依頼者が弁護士に真実を話す、そんな当たり前の信頼関係すら弁護士は築けなかったのでしょうか?弁護士もDNA結果を信じきって、虚偽の自白を疑うことすらしなかったのでしょうか?不思議でなりません。
日弁連は、今回の件を受けて、「取調べの全面可視化の要請は高まった。」などと声明を発していますが、足利事件の弁護活動を検証する動きは今のところありません。