オウム3死刑囚を証人尋問へ…平田被告の公判で
今日は「オウム事件」の話です。
オウム真理教の目黒公証役場事務長拉致事件などで起訴された元教団幹部・平田信まこと被告(48)の公判前整理手続きが17日,東京地裁であり,斉藤啓昭ひろあき裁判長は,井上嘉浩死刑囚(43)ら元教団幹部の死刑囚3人の証人尋問を地裁の法廷で行うことを決めた。
確定死刑囚が拘置所の外に出て,公開の法廷で証言するのは極めて異例。
検察側はこれを不服として同日,地裁に異議を申し立てたが,棄却された。今後,最高裁への特別抗告も検討するが,地裁の判断が覆ることはないとみられる。
公開法廷での尋問が決まったのは,井上死刑囚と中川智正(50),小池(旧姓・林)泰男(55)両死刑囚。
検察側は,平田被告が起訴された事務長拉致事件,東京・杉並のマンションで起きた爆弾爆発事件の立証のため,3人を証人申請。この際,「拘置所から出て傍聴人の目にさらされれば,死刑囚が精神的に不安定に陥るかもしれない」として,尋問は3人が収容中の東京拘置所で非公開で行うよう要望していた。
しかし,斉藤裁判長は「現時点で,例外的に裁判所外で尋問する必要性が認められない」と判断し,検察側と弁護側に説明した。憲法は裁判を公開の法廷で行うと定め,特に刑事裁判の公開を求めており,この原則に基づいたものとみられる。平田被告の弁護人も,「傍聴席から見えないよう仕切りを置けば,精神的な安定を乱すとは考えにくい」として,公開での実施を求めていた。公判は裁判員裁判で年内にも始まる可能性が高い(2013年6月17日23時38分 読売新聞)。
検察側は,東京拘置所内での証人尋問を求めていました。証人の健康状態や年齢,その他の事情を考慮し,審理を行っている裁判所以外の場所に,裁判官,検察官,弁護人らが出かけて行って行う非公開の尋問のことを「所在尋問」と言います。
今回の東京地裁の決定は妥当なものだと考えます。死刑の瞬間を日々待ち続ける死刑囚の精神状態は,我々の想像を絶するものでしょう。いったん拘置所の外に出れば,生への強い願望が刺激され,予想外の心情の変化が生じてしまうかもしれません。
しかし,公開裁判を受ける権利は,憲法上の権利です。もし刑事裁判が密室で行われ,国家が気に入らない者を国民の監視の届かないところで裁き,葬るなら,それは暗黒裁判であり,専制国家の司法制度に他なりません。死刑囚の心情の安定も重要な利益ですが,憲法上の原則を重要と考えた結果が今回の裁判所の判断であると言えそうです。
ただ,公開の法廷で死刑囚の証人尋問を実施すると言っても,その心情の安定への配慮は必要です。遮蔽措置等の物理的配慮のみならず,関連性のない尋問の排除など,尋問面での配慮も当然必要となるでしょう。