略式起訴不相当の判断の狙い

【警部補公判,地裁へ移送】―暴言事件,大阪簡裁が決定

大阪府警東署の警部補,T被告が任意で取り調べた男性に暴言を吐き自白を強要したとされる事件で,大阪簡裁は20日までに,事件を大阪地裁に移送して公判を開くことを決定した。【平成22年1月21日付/日本経済新聞/夕刊】

ある刑事事件で,大阪府警の警察官が取調べで暴言を吐き自白を強要した問題で,昨年12月28日,大阪地検から脅迫罪で略式起訴された事案につき,略式手続は「不相当」として正式公判に回されていた事件で,とうとう大阪簡裁は,事件を簡裁から地裁に移送しました。

当初,私は,警察官の当該行為が,略式手続のような密室裁判ではなく,公開の公判で非難されるべきである,というのが略式不相当とした簡裁判事の狙いであると思っていましたが,そうした理由に留まらず,刑罰として,「罰金」が不相当で,「懲役刑」が相当であるとした,より重要な判断であったことが明らかになりました。刑事事件に携わる捜査官は,取調べでの言動如何によっては刑務所送りになる,ということを意味します。

これまでは,警察官,検察官による有形力による暴行についてのみ,懲役相当の判断が出ていましたが,言葉の暴力にあっても懲役相当判断が出ると言う意味では,全く新しい,厳格な運用だと思います。脅迫罪というのは,初犯者にあっては暴力団員でない限り,普通は罰金刑です。捜査官に高度の義務を課した判断と言えます。

「刑事司法」に関連する記事

更生保護システム

今日は「更生保護」について取り上げます。 法務省は25日までに,万引きや無銭飲食など比較的軽い罪で起訴猶予処分が見込まれる容疑者に保護観察官が面談し,社会復帰を支援する取り組みを,全国7カ所の保護観察所で10月から試行すると発表した。 7カ所は仙台, ...

READ MORE

ネットなりすまし痴漢事件

今日は「インターネット掲示板でのなりすまし事件」について考えてみます。 女性になりすましインターネットの掲示板で痴漢を呼び掛けたとして,和歌山区検は29日,大阪国税局海南税務署員,I容疑者を県迷惑防止条例違反(卑わいな行為)で略式起訴した。和歌山簡裁 ...

READ MORE

オウム3死刑囚を証人尋問へ…平田被告の公判で

今日は「オウム事件」の話です。 オウム真理教の目黒公証役場事務長拉致事件などで起訴された元教団幹部・平田信まこと被告(48)の公判前整理手続きが17日,東京地裁であり,斉藤啓昭ひろあき裁判長は,井上嘉浩死刑囚(43)ら元教団幹部の死刑囚3人の証人尋問 ...

READ MORE

一昔前の陪審裁判

いよいよ5月21日に始まる裁判員制度ですが、実は、国民が刑事裁判に参加するのはこれが初めてではありません。大正デモクラシーの影響を受けて、大正12年4月18日に公布された陪審法に基づく陪審裁判がそれです。 現行の裁判員制度に対する国民の評判は必ずしも ...

READ MORE

少年事件の刑の厳罰化に思う

今日は少年に対する刑罰についての話です。 茨城県稲敷市の利根川河川敷で昨年9月,同市光葉,無職湯原智明さん(当時20歳)を集団暴行で死亡させたとの傷害致死罪などに問われた同市の無職少年(18)の裁判員裁判で,水戸地裁は27日,懲役5年以上8年以下(求 ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー