北大生らのイスラム国参加計画で警視庁が家宅捜索

今日は,「私戦予備及び陰謀罪」に関する記事です。

イスラム過激派組織「イスラム国」に参加するためにシリアに渡航しようとしたとして,警視庁公安部が北海道大学の学生の関係先などを捜索した事件です。この学生は,東京都内の古書店でシリア行きの求人広告を見て,応募したとみられることが新たに分かりました。
この事件は,北海道大学を休学中の26歳の大学生らが「イスラム国」に戦闘員として加わるためシリアに渡航する計画を立てた刑法の「私戦予備・陰謀」の疑いで警視庁公安部による事情聴取を受け,関係先数か所が捜索されたものです。
任意の事情聴取に対し,大学生は「『イスラム国』に加わり,戦闘員として働くつもりだった」と話しているということです。
警視庁などへのその後の取材で,大学生は,東京・JR秋葉原駅近くの古書店でシリア行きの求人広告の貼り紙を見て,応募したとみられることが新たに分かりました。
貼り紙には,「求人 勤務地シリア」などと記されていたほか,「新疆ウイグル自治区」「暴力に耐性のある方」という記載もありました。
「ただの求人広告ですね。シリアに行くっていう求人。(求人を見て来た人は)8月とかに1人いたとか聞いた」(古書店店員)
この大学生は,7日,成田空港を出発し,トルコ経由でシリアに入る予定だったということで,航空券も用意していました。また,今年8月にもシリアに渡航する計画を立てていましたが,何らかのトラブルで断念したことも新たに分かりました。
「(一緒に住み始めたのは)2か月前くらい 。最近イスラム国いろいろとあったので,話題になったのを一緒に見たりして」(同居人の男性)
警視庁公安部は関係先の捜索で大学生のパスポートなども押収していて,この大学生以外にも「イスラム国」に参加しようとした動きがなかったかなど事件の全容解明を進める方針です。(2014年10月7日11時10分 TBSNewsi)

 私戦予備及び陰謀罪とは,「外国に対して私的に戦闘行為をする目的で,その予備又は陰謀をした者は,3月以上5年以下の禁錮に処する。ただし,自首した者は,その刑を免除する。」という罪で,刑法93条に規定があります。
 この罪における保護法益は我が国の国際関係的安全であり,章立ても「国交に関する罪」となっています。国民が一部でも外国に対して戦争をしかけるようなことがあれば,我が国と諸外国との関係性は修復不可能なものになるおそれさえあります。
 私戦の処罰は予備・陰謀のみであり,既遂犯処罰規定や未遂犯処罰規定はありません。これは,私人が外国と戦争を実際に行うことは考えられないだろうという理由で,設けられていないのだと考えられています。ですが,仮に実行をした場合には刑が科されないということではなく,殺人罪,放火罪,強盗罪,騒乱罪など,刑法の一般規定が適用されるというのが一般的な理解になっています。
 実際にどのような行為が私戦予備・陰謀に当たるかといいますと,①外国に対して,②私的に戦闘行為をする目的で,③その予備又は陰謀をすることです。①の「外国」とは国家としての外国であり,外国の一地方へ限定した武力行使や特定の外国人組織に対する攻撃は含まれません。②「私的に戦闘行為をする目的」とは,日本の国家的意思とは関わりなく勝手に,外国に対し武力行使を目的とすることです。③「予備」とは私的な戦闘行為を行うための準備行為をいい,武器確保・食料調達・資金調達のみならず,兵の準備も含まれます。「陰謀」とは,私的な戦闘行為の実行のため,二人以上の者が謀議・画策をする行為をいいます。
 本件について見てみたいと思います。まず,イスラム国はイラク・シリアとの間で戦闘をしているので,ここで戦闘員として働くことは,①「外国」に私的に戦闘行為を目的としているといえます。次に,日本はイスラム国を援助して武力行使をするような意思は持っていませんので,②についても満たしているといえます。また,兵として志願することは兵の準備若しくは謀議に加わるということになりますので,③予備か陰謀のいずれかには該当することになります。
 また,刑法3条には日本国民が日本国外にて犯した場合においても,適用される日本刑法が列挙されていますが,93条はこの中には挙げられていません。つまり,国外にて戦争の準備をした場合には,本条は適用されないことになります。これは,上述の本条の保護法益からも,国外にて戦争の準備をした場合には,日本の意思とは思われないであろうことから,国外犯を処罰しないという趣旨だと読み取れます。しかし,日本国民が国外にて戦争の準備をした場合には,我が国の国際関係的安全という保護法益を犯さないのかというと,疑問が残るところではあります。
 最後に,ただし書には自首をした場合には刑の免除がなされることが規定されています。刑の免除とは,刑を軽くする刑の減軽と異なり,全く刑を科さないというものです。それも,刑を免除「できる」ではなく,免除「する」という規定のため,自首があったら必ず免除をしなければなりません(これを必要的免除といいます)。本条における犯罪の,自首をしたときの特典は,他の犯罪類型の中でも非常に大きいといえます。これは,自首に大きな特典を与えることによって,私戦の実行を未然に防止しようとする刑事政策的規定であるということができます。

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