薬物依存者等に対する刑の一部執行猶予制度について

弊所では,覚せい剤,大麻,麻薬などの薬物事件を多数担当しています。現在の日本の刑事司法においては,薬物の使用や所持といった薬物事件の初犯者であれば,起訴されて裁判所で審理を受ける場合でも,懲役1年6月,執行猶予3年といった刑が科され,社会復帰できることが多くあります。しかしながら,薬物事件は再犯率が高い犯罪であり,1回目は執行猶予であったとしても,2回目,3回目と裁判を受ける場合には実刑判決となり,刑務所に収容されることになります。そして,刑務所で矯正教育を受けたはずの人が,再び薬物に手を染め,再度長期の実刑に服する事例が後を絶たないのです。
弊所が薬物依存の再犯者を弁護する場合,実刑判決相当であったとしても,被告人に必要なことは薬物依存症の治療であり,刑事施設に長期間収容したとしても根本的な解決にならないことを訴え,専門治療施設と連携を図り,保釈期間中や出所後に専門治療施設等への入所・通院することを前提として,出来る限り短期間の懲役刑を求めていくという弁護を行うことも多々あります。しかしながら,全ての事件において,専門施設と連携を図ることが可能というわけでもありませんし,裁判所がこういった主張を汲みいれるか否かは,裁判所の裁量に委ねられます。
このような現状の日本の刑事司法制度では,薬物再犯者に対する処遇が不十分であり,薬物事件の再犯率を下げることには繋がらず,徒に再犯者を増やすことになってしまっていたのです。
こういった薬物再犯者の処遇についての問題点を踏まえ,平成25年6月,刑の一部執行猶予制度の導入等を内容とする「刑法等の一部を改正する法律」及び「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予に関する法律」が成立し,今年の6月までに施行されることになっています。今までの刑事司法制度においては,刑期の全部を実刑とするか,刑期の全部を執行猶予とするかの2つしか選択肢がありませんでしたが,この法律によって,3年以下の懲役・禁固を言い渡すときは,判決で1年~5年間の間その一部の執行を猶予することができるようになりました。即ち,刑務所内における処遇と地域社会における処遇(保護観察)を併せることで,中間的な処遇を図ることができるようになるのです。
一部執行猶予期間中は,初犯者であれば保護観察に付するか否かは裁判所の裁量に委ねられますが,薬物使用等の罪の再犯者は,必ず一部猶予期間中に保護観察が付くことになります。そのため,刑の一部執行猶予期間中に保護観察に付された犯罪者は,一定期間の施設内処遇において矯正教育を受けた後,地域社会での生活への橋渡しとして,薬物処遇プログラムを受けたり,薬物処遇重点実施更生保護施設への入所等,再犯防止に向けた専門的な治療を受けることが可能になるのです。
この制度は,まさしく弊所の行う専門治療施設と連携した薬物存社者に対する弁護という方針が,日本の刑事司法にも取り入れられるという事であり,画期的な制度であると言えます。
もっとも,保護観察中等に薬物依存者の支援に協力する民間施設が少なく,実効性に欠けるのではないか,との問題点も従前から懸念されていました。そこで,平成27年11月19日に厚生労働省が発表したガイドラインでは,保護観察所や医療機関等の民間機関が連携して,薬物依存者に対して治療や支援を行う指針が定められました。
今後,薬物依存者に対する専門施設への連携が深まり,薬物事件の再犯率が低下していくことを期待します。弊所としても,個々の刑事裁判を通じて,薬物依存者に対する再犯率低下に向けた処遇改善の活動を継続する所存です。

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長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

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