危険ドラッグ:成分不明 即座に有害判定できる検査

今日は,「危険ドラッグの検査」に関する記事です。

 成分不明の危険ドラッグが、人体に有害かどうかを即座に判定できる検査手法を、国立精神・神経医療研究センターのチームが開発した。従来の検査キットは特定の化学物質の有無を調べるため、構造を一部変えたドラッグには反応しなくなる難点があった。生きた細胞を使った新たな手法では構造に関わらず物質の毒性が分かり、規制の網がかかっていないドラッグの素早い販売禁止につなげられると期待される。
 流通している危険ドラッグで最も多いのは「カンナビノイド系」と呼ばれる化学物質を含むタイプ。大麻と似た成分で、毒性は数十倍ある。現在、この系統で約800種類が販売や所持などを禁じた指定薬物になっているが、比較的簡単に構造を変えた薬物を合成できるため、規制対象外の新物質が次々現れる「イタチごっこ」が続いている。
 同センターの舩田正彦・依存性薬物研究室長らは、合成したカンナビノイドが脳内の特定のたんぱく質(受容体)と結合して幻覚や錯乱などを引き起こすことに着目。ハムスターの細胞を遺伝子操作し、受容体が刺激されると緑色に光る細胞を作製した。これにカンナビノイドを含む溶液をたらすと、作用(毒性)が強いほど明るく光るという。
 新たに出回った危険ドラッグを法規制するには、まず化学物質を特定しなければならず、解析には半月〜数カ月かかる。6月の池袋の乗用車暴走事件でも使われたドラッグの緊急指定には3週間かかった。この手法を使えば、物質の構造は不明でも人体に有害であることは確認できるため、未承認薬として回収などがしやすくなる。厚生労働省監視指導・麻薬対策課は「早急な規制が必要なドラッグを見極めるのに有効だ」と期待する。
 今後、各都道府県の衛生研究所に導入されれば警察の早期取り締まりに貢献すると期待される。しかし、遺伝子組み換え細胞を扱うだけに、十分な管理体制と機器の整備が必要になる。
 舩田室長は「細胞を使わずに同じ原理で検査できるキットを開発し、どこでも使えるようにしたい」と話す。(2014年09月03日 07時00分 毎日新聞)

 人体に有害で,危険な薬物であるのなら法規制を待たず,所持・使用を罰していけば良いではないか,と考える人もいるかと思われます。確かに,記事にあるような「いたちごっこ」の状態が続いており,さらに高い可能性で今後取り締まりの対象となる物質であれば,そのように考えるのも理由があることかもしれません。しかし,刑法には,罪刑法定主義や遡及処罰の禁止という原則があります。これらの根拠は憲法31条,39条に規定があります。罪刑法定主義とは,法が規定することによって禁止される行為をした場合にのみ処罰されるというもので,遡及処罰の禁止とは,行為時に適法だった(処罰規定がなかった)行為は,事後の法律の規制によって遡って処罰することは出来ないというものです。いずれも,国民の自由を広く保障した反面,一定の行為は取り締まる,という自由主義の思想から認められるものです。
 このような憲法の大原則がある以上,危険だから,悪いことだからという理由で,むやみに刑事責任を問うことは出来ないのです。法律の制定の方で先回りして,取締対象薬物を増やしていくことも考えられますが,記事にもあるとおり,薬物の配合を少し変えただけで取締対象から外れてしまうのでは,実効性がありません。
 結局,「いたちごっこ」を続けていく他ないのかもしれませんが,薬物の特定のもと迅速な法制定が実現できるようになれば,社会における薬物の規制も期待できるものとなっていくことでしょう。

「司法制度」に関連する記事

高検による監督で冤罪は防げるか

【元厚労局長 起訴は誤り】―最高検 資料改ざんで検証結果 元厚生労働省局長の無罪が確定した郵便料金不正事件や大阪地検特捜部による捜査資料改ざん・隠蔽事件について最高検は24日,検証結果報告書を公表した。元局長の捜査について「逮捕の判断に問題があり,起 ...

READ MORE

司法試験「5年で3回」を「5年で5回」に緩和

今日は「司法試験制度」に関する記事です。      政府は、司法試験の受験回数制限を現行の「5年で3回」から「5年で5回」に緩和することを柱とした司法試験法改正案を、1月召集の通常国会に提出する方針を固めた。司法試験の合格者数の増加につながりそうだ。 ...

READ MORE

特別公務員職権濫用罪の成否は?

今回のFD改ざん事件について,前田検事が故意を認める供述を始めたとの報道がなされています。 報道を前提にすれば,村木氏の逮捕着手前に既に前田検事はFDの最終更新日が6月1日であったことを知っていながら,これを事件決裁である着手報告の際に上司に報告しな ...

READ MORE

発砲警察官に殺人罪は成立するか

報道によると,奈良県警の警察官が逃走車両に発砲し、助手席の男性が死亡し特別公務員暴行陵虐致死罪などで起訴されていた(付審判請求事案)事件で,訴因変更により殺人罪も審理することになったようです。裁判員裁判です。 窃盗事件で逃走した車両が、警察車両に挟ま ...

READ MORE

尖閣諸島沖事件の顛末

東京地検は,尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐる映像流出事件で、警視庁から書類送致を受けて国家公務員法の守秘義務違反容疑で捜査していた神戸海上保安部の元海上保安官起訴猶予処分とし,さらに,那覇地検も、この衝突事件で公務執行妨害容疑で逮捕され、のちに処分保 ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー