LINEで自殺教唆容疑の慶大生釈放

今日は「自殺関与罪」に関する記事です。

交際中の女性に無料通信アプリLINE(ライン)でメッセージを送り自殺をそそのかしたとして、自殺教唆容疑で逮捕された慶応大3年の男子学生(21)が22日、釈放されたことが警視庁三田署への取材で分かった。
三田署によると、検察側の勾留請求が22日、東京地裁で却下された。男子学生は「メッセージを送ったことは間違いない」と供述しており、同署は任意で捜査を継続する。
三田署は19日、昨年11月に交際していた女性にラインで「お願いだから死んでくれ」などとメッセージを送信し、自殺を決意させたとして自殺教唆容疑で男子学生を逮捕、21日に送検していた(2014年2月23日0時4分日刊スポーツ/共同)。

殺人罪における「人を殺した者」(刑法199条)には,行為者自身は含まれないため,現行法上自殺は不可罰です。しかし,その自殺について教唆や幇助するなどして関与した者は,自殺関与罪(刑法202条)として処罰されます。
自殺教唆とは,他人をそそのかして自殺実行の決意を起こさせることをいいます。つまり,本件において,男子学生が送信したメッセージによって被害女性が自殺を決意したといえる場合には,本罪が成立することになります。

なお,記事によると,被疑者の男性は検察による勾留請求が却下されたため,捜査機関による身柄拘束が解かれたようです。このように釈放された場合,一般の方からすると,被疑者は無実だったのではないかと思う人がいらっしゃるかもしれません。
しかし,犯罪者に対する処罰と捜査方法とは別の問題です。処罰をどうするかは, 捜査が終わった後で,検察官,そして裁判官が決めます。一方で,それまでの捜査のやり方をどうするか,つまり,逮捕や勾留をしたままで行うか, 釈放して在宅で行うかはまた別の考慮が必要となるのです。罪証湮滅のおそれがあったり,逃亡のおそれがあれば勾留却下にはならずに身柄拘束したままで捜査が続けられていたでしょう。勾留却下となったということは,被疑者の男性が事実を認めていて,口裏合わせなどといった罪証湮滅のおそれが認められなかったことが考えられます。また,逃亡のおそれも無いと判断されたのでしょう。実際,被害者は既に亡くなっているので被害者への働きかけのおそれはありませんし,Lineという客観的な証拠も押さえられていますので,身柄拘束の必要はないと判断されたと思います。今後の事件の進展に注目したいと思います。

「司法制度」に関連する記事

無罪判決を破棄、組幹部に懲役20年 大阪高裁

今回は,前回に引き続き「裁判員制度」に関する記事です。 神戸市で2007年、配下組員を指揮し指定暴力団山口組系組長を刺殺したとして、組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)の罪に問われた山口組山健組幹部 I被告(64)の控訴審判決で、大阪高裁は17日までに一 ...

READ MORE

郵便不正事件で「公訴権乱用論」適用か

【改ざん事件 調書開示命令】― 郵便不正・元係長公判「公訴棄却の余地」 郵便料金不正事件で虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた元厚生労働省係長,上村勉被告(41)の期日間整理手続きで,大阪地裁は31日,大阪地検特捜部の捜査資料改ざん・隠蔽事件で起訴 ...

READ MORE

国士としての刑事弁護士

検察官は,犯罪を摘発訴追し,刑罰を科して国家の治安を守る。 犯罪者を訴追処罰するという治安維持作用は、専制国家、独裁国家、民主国家に共通する国家作用であり,共通する国家使命である。 しかし、無辜を処罰してはならないという使命は道義国家のみに固有の使命 ...

READ MORE

刑事法ローヤーの35年前

恩師渥美東洋先生が亡くなって,しんみりしてしまいました。 古箱をひっくり返し,恩師の思い出を探していたら,昔父に出した手紙を掘り出しました。 消印は1979年8月28日。 今から35年前の「僕」だ。札幌の予備校の寮に入り,大学受験浪人生活をしていたこ ...

READ MORE

公器を思う

私の趣味の一つに就寝前にDVDを見るというものがある。 歴史ものが好きで,これまで織田信長,西郷隆盛,新撰組,大村益次郎などを扱った大河ドラマなどを見たが,就寝前に,しかもベッドに横になって見るのが好きである。 DVDプライヤーは小型のもので,それを ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー