職権探知主義と前田元検事の調書採用

小沢一郎民主党元代表の資金管理団体「陸山会」の収支報告をめぐる政治資金規正法違反で,東京地裁の裁判長が職権により前田元検事が作成した被告人大久保隆規の検事調書が証拠採用されました。

刑事裁判の原則は,当事者主義といって,当事者である検事や弁護士が請求した証拠についてのみ裁判所が採否の判断をするのです。これに対し,当事者の請求に縛られずに,裁判所が真実発見のために証拠を使用して取り調べていく法制を「職権探知主義」と言います。

この前田元検事の検事調書は,同元検事の不祥事を受けて検察官が証拠請求をしていませんでした。ですから,当事者主義の原則からいうと,公判で取調べられることはありませんし,マスコミもそのように予想していたのではないでしょうか。

ところが,それを裁判所が職権により,証拠採用したのです。
もとより,当事者主義刑訴法を標榜する現行法にあっても,一部補充的に職権主義の余地を残しています。例えば,刑訴法298条2項で職権証拠調べが認められているのです。今回の前田元検事の調書を証拠採用したのは,この条文が根拠になります。

問題は,裁判所があえて職権探知主義を発動してまでも前田元検事の検事調書を採用した意図はどこにあるかです。この調書の内容は事実関係を認める内容であって,信用性はともかく任意性には問題がない調書に見受けられます。裁判所の心証が有罪に傾いているような気がします。

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