無罪判決を破棄、組幹部に懲役20年 大阪高裁

今回は,前回に引き続き「裁判員制度」に関する記事です。

神戸市で2007年、配下組員を指揮し指定暴力団山口組系組長を刺殺したとして、組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)の罪に問われた山口組山健組幹部 I被告(64)の控訴審判決で、大阪高裁は17日までに一審・神戸地裁の裁判員裁判の無罪判決を破棄し、懲役20年を言い渡した。

裁判員裁判で無罪となり、職業裁判官だけで審理する二審で逆転有罪となる例は、覚醒剤事件以外では初めてとみられる。

大阪高裁の的場純男裁判長は判決理由で「一審判決が被告による指揮命令や共謀を認定しなかったのは不合理だ」と指摘した。

一審の裁判員裁判判決は「被告の指揮で組織的に行われたことについて合理的な疑いが残る」と判断。検察側が控訴していた。判決によると、I被告は配下の組員らに襲撃を指示して07年5月、山口組系のG組長(当時65)を刃物で刺して殺害した(2014/1/17 9:40日本経済新聞)。

日本の裁判員制度は、裁判員が事実認定及び量刑の判断を行います。この制度は,裁判員がそれぞれの知識経験を生かしつつ裁判官と一緒に判断することにより,より国民の理解しやすい裁判を実現することを目的として導入されました。今回取り上げた事件は,この裁判員裁判によって判断された第一審の事実認定を,控訴審が覆したというものです。
今回,なぜ大阪高裁が一審の事実認定を覆したのか,その理由は記事からは明らかではありません。本件は暴力団が関わる事件ということもあり,裁判員が報復を恐れ判断が甘くなったのではないかという声が出ていますが,そうではないことを信じたいです。

もう1点,過去の記事を紹介します。

裁判員除外請求の却下事件、組長初公判 厳戒下で
指定暴力団住吉会系組幹部を射殺したとして、組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)などの罪に問われた指定暴力団山口組二代目小西一家総長O被告(65)=静岡市駿河区=の裁判員裁判初公判が15日、さいたま地裁(多和田隆史裁判長)で開かれ、O被告は「殺害の指示も共謀も一切していない」と起訴内容を否認した。

O被告は「直参」と呼ばれる山口組直系組長。さいたま地検は、裁判員に危害が及ぶ可能性があるとして裁判員裁判の対象から除外するよう求めたが、さいたま地裁は「規定に該当しない」と1月に却下した。除外請求の却下は初とみられる。

この日、地裁は建物入り口に金属探知機を設置し、所持品検査も実施した。埼玉県警も敷地内外に警察官を配置するなど、厳重な警戒態勢が敷かれた。法廷内にも警備員が置かれ、証言台と傍聴席の間には透明のついたてが立てられた。男性2人、女性4人の裁判員は緊張した表情だった。

地裁によると、裁判員選任手続きは7日にあり、出席した候補者49人のうち、15人に辞退が認められ、抽選で裁判員6人、補充裁判員4人が選ばれた。予備日を含め計25回の公判が予定されており、判決は7月18日に言い渡される。

落合被告は2008年4月、埼玉県ふじみ野市で、組員多数と共謀し、住吉会系組幹部(当時35)を射殺したなどとして起訴された。

冒頭陳述で検察側は「被告の意向や指示に基づき、小西一家として組織で起こした事件」と指摘した(2013/5/15 12:52日本経済新聞/共同)。

この記事にあるように,たとえ暴力団が関わる事件であっても裁判員裁判の対象となります。裁判員が評議において自由闊達な意見が交わせるよう,裁判員に対してはこれまでより慎重できめこまやかな配慮がなされることを望みます。

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長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

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