法相 性犯罪の罰則見直しを指示

今日は,「性犯罪の法定刑引き上げ」に関する記事です。

松島法務大臣はNHKなどとのインタビューで,性犯罪に対する刑罰について,「法定刑の引き上げを含めた罰則の在り方について早急な検討を指示した」と述べ,罰則の見直しを進める考えを示しました。
この中で松島法務大臣は,女性を乱暴して死亡させたり,けがを負わせたりする性犯罪の刑罰について,強盗致死や強盗傷害の罪と比較し,「物を取った罪のほうが,女性の人生を狂わせるかもしれない強姦致死傷よりも重いということにずっと憤りを感じていた。国会議員として改めたいとずっと思ってきた」と述べました。
そのうえで「性犯罪の法定刑の引き上げを含めた罰則の在り方について早急な検討を指示した。法務省だけでなく,いろいろな人の話を聞きながら方針を打ち出してほしい」と述べ,性犯罪の罰則の見直しを進める考えを示しました。(2014年9月11日 23時21分 NHK)

  記事の中の,「女性を乱暴して死亡させたり,けがを負わせたりする罪」とは,刑法181条の強制わいせつ致死傷罪や強姦致死傷罪のことです。強姦致傷罪の法定刑は「無期又は5年以上の懲役」(刑法181条2項)と定められています。強姦致死罪の法定刑も同じです。
  一方,強盗致傷罪の法定刑は「無期又は6年以上の懲役」(刑法240条前段),強盗致死罪の法定刑は「死刑又は無期懲役」です(刑法240条後段)。
  まず,被害者が負傷した場合である「致傷罪」を見ていきます。法定刑は,上限は「無期」で同じですが,下限は強姦致傷罪のほうが「1年」少ないことがわかります。「物を取った罪のほうが,女性の人生を狂わせるかもしれない強姦致死傷よりも重いということにずっと憤りを感じていた。」という感想は,その通りだと思いますが,重くするとしてもせいぜい下限を6年とするのが適当です。7年とすると酌量減軽をしても執行猶予をつけることができなくなってしまうからです。
  次に,被害者が亡くなってしまった場合である「致死罪」を見ていきましょう。強盗致死罪は,「死刑又は無期懲役」のみであり,強姦致死罪と比べていちじるしく刑罰が重いことがわかります。もっとも,刑法240条後段には,殺人の故意がない強盗致死罪だけでなく,殺人の故意がある強盗殺人罪が含まれていることに注意する必要があります。現に,刑法240条後段で「死刑」判決となるのは,基本的に強盗殺人罪です。
  とはいっても,下限が「無期懲役」か「5年の懲役」かでは,依然として大きな開きがあります。こうなってしまう一つの原因は,刑法181条が「致傷罪」と「致死罪」を混ぜて書いていることにあると考えられます。刑法181条も,刑法240条と同じように,「致傷罪」と「致死罪」を分けて書き,法定刑を別々にすべきなのかもしれません。

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長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

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