尖閣諸島沖事件の顛末

東京地検は,尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐる映像流出事件で、警視庁から書類送致を受けて国家公務員法の守秘義務違反容疑で捜査していた神戸海上保安部の元海上保安官起訴猶予処分とし,さらに,那覇地検も、この衝突事件で公務執行妨害容疑で逮捕され、のちに処分保留で釈放された中国人船長を起訴猶予にしたと発表しました。

元海上保安官の処分については,起訴猶予とした理由に合理性がありますが,中国人船長については,納得がいきませんね。というのは,検察庁は中国人船長の行為が,わざと衝突させたのではなく,「未必の故意」によるものであったことを起訴猶予の理由にしているからです。取調べ中にそのような供述が得られた訳でもないのに,なぜ「未必の故意」と断定するのでしょうか。客観的な状況も主観認定の一事情にはなり得ますが,主観は第一次的には本人供述を基に判断されるべきでしょう。でも,検察は中国人船長からその主観的事情を十分に聴取する前に彼を釈放してしまいました。

捜査を尽くし,事案を解明したうえで処分を決める,そういう当たり前の検察権の行使がこの事案ではまっとうされていません。確定的な故意なのか,未必の故意なのか,捜査を尽くしていないのに,「日中関係」を考慮して理不尽にも中国人船長を釈放してしまったのです。検察の政治的配慮が検察権行使をゆがめてしまいました。今回の起訴猶予処分の理由に「日中関係」を挙げていないのは,釈放に対する検察の後ろめたさの現れといるでしょう。

「司法制度」に関連する記事

高検による監督で冤罪は防げるか

【元厚労局長 起訴は誤り】―最高検 資料改ざんで検証結果 元厚生労働省局長の無罪が確定した郵便料金不正事件や大阪地検特捜部による捜査資料改ざん・隠蔽事件について最高検は24日,検証結果報告書を公表した。元局長の捜査について「逮捕の判断に問題があり,起 ...

READ MORE

教室で盗撮疑い、高校生書類送検 京都で条例初適用

今日は,「京都府での盗撮」に関する記事です。  高校の教室内で同級生を盗撮したとして、右京署は24日、京都府迷惑行為防止条例違反(盗撮)の疑いで、京都市伏見区の高校3年の男子生徒(17)を書類送検した。学校や職場での盗撮行為の規制を盛り込んだ4月施行 ...

READ MORE

尖閣諸島ビデオ映像の流出は罪か

尖閣諸島漁船衝突事件をめぐる映像流出事件で,検察庁や警視庁が捜査を始めました。那覇地検が政治的配慮により容疑者の船長を,半ば超法規的に釈放帰国させた以上,同事件のビデオ映像は,捜査資料という性質を超えて,政治性を帯びてきます。現に,野党を問わず全面公 ...

READ MORE

郵便不正事件で「公訴権乱用論」適用か

【改ざん事件 調書開示命令】― 郵便不正・元係長公判「公訴棄却の余地」 郵便料金不正事件で虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた元厚生労働省係長,上村勉被告(41)の期日間整理手続きで,大阪地裁は31日,大阪地検特捜部の捜査資料改ざん・隠蔽事件で起訴 ...

READ MORE

薬物依存者等に対する刑の一部執行猶予制度について

弊所では,覚せい剤,大麻,麻薬などの薬物事件を多数担当しています。現在の日本の刑事司法においては,薬物の使用や所持といった薬物事件の初犯者であれば,起訴されて裁判所で審理を受ける場合でも,懲役1年6月,執行猶予3年といった刑が科され,社会復帰できるこ ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー