尖閣諸島沖事件の顛末

東京地検は,尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐる映像流出事件で、警視庁から書類送致を受けて国家公務員法の守秘義務違反容疑で捜査していた神戸海上保安部の元海上保安官起訴猶予処分とし,さらに,那覇地検も、この衝突事件で公務執行妨害容疑で逮捕され、のちに処分保留で釈放された中国人船長を起訴猶予にしたと発表しました。

元海上保安官の処分については,起訴猶予とした理由に合理性がありますが,中国人船長については,納得がいきませんね。というのは,検察庁は中国人船長の行為が,わざと衝突させたのではなく,「未必の故意」によるものであったことを起訴猶予の理由にしているからです。取調べ中にそのような供述が得られた訳でもないのに,なぜ「未必の故意」と断定するのでしょうか。客観的な状況も主観認定の一事情にはなり得ますが,主観は第一次的には本人供述を基に判断されるべきでしょう。でも,検察は中国人船長からその主観的事情を十分に聴取する前に彼を釈放してしまいました。

捜査を尽くし,事案を解明したうえで処分を決める,そういう当たり前の検察権の行使がこの事案ではまっとうされていません。確定的な故意なのか,未必の故意なのか,捜査を尽くしていないのに,「日中関係」を考慮して理不尽にも中国人船長を釈放してしまったのです。検察の政治的配慮が検察権行使をゆがめてしまいました。今回の起訴猶予処分の理由に「日中関係」を挙げていないのは,釈放に対する検察の後ろめたさの現れといるでしょう。

「司法制度」に関連する記事

発砲警察官に殺人罪は成立するか

報道によると,奈良県警の警察官が逃走車両に発砲し、助手席の男性が死亡し特別公務員暴行陵虐致死罪などで起訴されていた(付審判請求事案)事件で,訴因変更により殺人罪も審理することになったようです。裁判員裁判です。 窃盗事件で逃走した車両が、警察車両に挟ま ...

READ MORE

刑事訴訟法等の一部を改正する法律案が提出!

平成27年3月13日,第189回通常国会において,「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が提出されました。この法案は,昨年9月に,法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」が法相に答申し,その後,3月13日に内閣が閣議決定したものです。政府与党は今国 ...

READ MORE

LINEで自殺教唆容疑の慶大生釈放

今日は「自殺関与罪」に関する記事です。 交際中の女性に無料通信アプリLINE(ライン)でメッセージを送り自殺をそそのかしたとして、自殺教唆容疑で逮捕された慶応大3年の男子学生(21)が22日、釈放されたことが警視庁三田署への取材で分かった。 三田署に ...

READ MORE

ピンクパンサー逮捕・送還

銀座の宝石店の強盗傷害事件の容疑者として,国際窃盗団”ピンクパンサー”のメンバーがスペインで身柄を拘束され,日本に送還されました。 スペインと日本との間には犯罪人引渡条約は締結されておらず,外交ルートを通じての送還の実現でした。 実は,日本が現在,犯 ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー