尖閣諸島沖事件の顛末

東京地検は,尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐる映像流出事件で、警視庁から書類送致を受けて国家公務員法の守秘義務違反容疑で捜査していた神戸海上保安部の元海上保安官起訴猶予処分とし,さらに,那覇地検も、この衝突事件で公務執行妨害容疑で逮捕され、のちに処分保留で釈放された中国人船長を起訴猶予にしたと発表しました。

元海上保安官の処分については,起訴猶予とした理由に合理性がありますが,中国人船長については,納得がいきませんね。というのは,検察庁は中国人船長の行為が,わざと衝突させたのではなく,「未必の故意」によるものであったことを起訴猶予の理由にしているからです。取調べ中にそのような供述が得られた訳でもないのに,なぜ「未必の故意」と断定するのでしょうか。客観的な状況も主観認定の一事情にはなり得ますが,主観は第一次的には本人供述を基に判断されるべきでしょう。でも,検察は中国人船長からその主観的事情を十分に聴取する前に彼を釈放してしまいました。

捜査を尽くし,事案を解明したうえで処分を決める,そういう当たり前の検察権の行使がこの事案ではまっとうされていません。確定的な故意なのか,未必の故意なのか,捜査を尽くしていないのに,「日中関係」を考慮して理不尽にも中国人船長を釈放してしまったのです。検察の政治的配慮が検察権行使をゆがめてしまいました。今回の起訴猶予処分の理由に「日中関係」を挙げていないのは,釈放に対する検察の後ろめたさの現れといるでしょう。

「司法制度」に関連する記事

元大阪地検特捜部長・副部長が逮捕される!犯人隠避が成立するか。

とても重苦しいニュースが入りました。 大坪元特捜部長,佐賀元副部長が逮捕されたというニュースです。 お二人とも存じ上げております。 とても悲しいニュースです。 ここで,最高検が逮捕に踏み切った犯人隠避罪の成否について考えてみます。 もちろん,最大の争 ...

READ MORE

職権探知主義と前田元検事の調書採用

小沢一郎民主党元代表の資金管理団体「陸山会」の収支報告をめぐる政治資金規正法違反で,東京地裁の裁判長が職権により前田元検事が作成した被告人大久保隆規の検事調書が証拠採用されました。 刑事裁判の原則は,当事者主義といって,当事者である検事や弁護士が請求 ...

READ MORE

前田検事立件のための最高検の”構図”は?

前田検事がFDデータを改ざんしたとして証憑隠滅罪で逮捕されました。 不正な公的証明書を作成したデータの最終更新日時が,2004年「6月1日」から「6月8日」に改ざんされていたということです。村木局長の関与の時期について6月初旬との構図を描いていた検察 ...

READ MORE

薬物依存者等に対する刑の一部執行猶予制度について

弊所では,覚せい剤,大麻,麻薬などの薬物事件を多数担当しています。現在の日本の刑事司法においては,薬物の使用や所持といった薬物事件の初犯者であれば,起訴されて裁判所で審理を受ける場合でも,懲役1年6月,執行猶予3年といった刑が科され,社会復帰できるこ ...

READ MORE

パチンコで負けむしゃくしゃ、店に落書きした男

今日は,「建造物等損壊罪」に関する記事です。 警視庁町田署は16日、東京都町田市の会社員の男(35)を器物損壊容疑で現行犯逮捕した。 逃亡や罪証隠滅の可能性がないと判断し、17日夕に釈放、任意で捜査を続け、容疑が固まり次第、建造物損壊容疑に切り替えて ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー