アリバイ証明で明らかになった誤認逮捕・誤認起訴

また冤罪事件です。冤罪事件はなくなることはありません。
今回は,弁護士の素晴らしい活動で,比較的早期に疑いが晴らされ,公訴取消となりました。

以下,報道記事です。

大阪府警北堺署がガソリンの窃盗容疑で男性会社員(42)を誤認逮捕した問題で,大阪地検堺支部は29日,窃盗罪の起訴を取り消した。北堺署長は今後,男性側に謝罪する意向で,府警は経緯を検証し公表する方針。男性側は公開の法廷で検察側が無罪論告した上で無罪判決を求めていたが,同地検は「早期に訴訟手続きから解放するのが相当と判断した」と説明している。

府警によると,堺市北区の駐車場で1月中旬,車から給油カードが盗まれる事件が発生。北堺署は4月24日,カードを盗んだとして男性を窃盗容疑で逮捕した。地検堺支部は不起訴にしたが,同署は5月15日,カードを使って給油しガソリンを盗んだとして男性を再逮捕。堺支部は6月4日,同罪で起訴した。

男性は一貫して容疑を否認。ガソリンスタンドの防犯カメラの映像などが逮捕,起訴の有力証拠とされたが,男性の弁護人の指摘で,カメラの設定時刻と実際の時刻との間に「ずれ」があったことが発覚した。

アリバイが確認されたため,男性は公判期日が取り消され,今月17日に釈放された。拘束期間は85日に上った。
大阪地検の上野友慈次席検事は29日の記者会見で,担当した検察官らがカメラの設定時刻と実際の時刻との間に「ずれ」があることを認識していたのに,正確な時間を確認する作業を怠ったことを明らかにした。

上野次席検事は「捜査が不十分だった。もっと慎重にすべきだった。起訴して身体拘束し心よりおわび申し上げる。真摯に反省し,同じ事を繰り返さないよう努めたい」と謝罪した。
地検内部では,起訴を取り消さずに無罪論告することも検討されたが,上級庁とも協議の結果,「最初から無罪が分かっている人物を法廷に立たせるわけにはいかない」(検察幹部)との結論に至ったという(2013年7月30日2時38分 日本経済新聞)。

この事件は検事よりも弁護士の方が優れていたことを示しています。
カメラ設定時刻と実際の時刻に「ずれ」があることを認識していながら,なぜどれくらいの誤差があるのか調べないのでしょうか?関心をもたなかったのでしょうか?被疑者はずっと否認していたはずです。どうして,もしかしたら犯人ではないかもしれない,と思わないのでしょうか?
この捜査検事は検事として失格です。給料だけを貰っているサラリーマン検事なのでしょう。

真相は何かについて,常に疑問に思い,真実にぐいぐいと迫り近づいていく姿勢が検事のみならず,刑事弁護人にも求められます。言い換えると,そのような気質をもった人のみが検事なり,刑事弁護士に向いていると言えるのです。

今回の刑事弁護士は,依頼人の「無実」との言葉を信じ,刑事弁護士としての基本に忠実に積極的に証拠収集と分析にあたり,熱心に真実を追究されました。
アトム法律事務所の大阪支部の赤堀順一郎弁護士ですが,感服致しました。

(中村)

更に詳しく知りたい方は「冤罪事件に巻き込まれてしまったとき」をお読みください。

「司法制度」に関連する記事

いざアメリカへ

僕が司法試験に合格したのはもうずいぶん昔になる。 合格した当時は,弁護士志望であって渉外事務所で国際案件に携わってみたいという夢があった。 あるいは,当時まだバブルの余韻もあったからなのか,ブル弁(ブルジョア弁護士)になって不動産専門弁護士!になって ...

READ MORE

南馬込放火殺人事件―判決,そして控訴

主任弁護人として関わっている南馬込放火殺人事件の判決が3月25日,東京地裁刑事12部で言い渡されました。 無罪主張を退け,懲役16年(求刑同20年)という不当な判決で,本日,当然のことながら控訴を申し立てました。 判決理由の中では,証人に立った警察官 ...

READ MORE

海上保安官の逮捕見送り

警視庁と東京地検の合同捜査会議で,尖閣諸島衝突事件のビデオを流出させた海上保安官について逮捕が見送られたようです。 前回のコラムで「義侠心あるものはいなくなったのか」なんてつい言ってしまいましたが,いましたね。まだまだ捨てたもんではないです。

READ MORE

今年苦杯を舐めた全ての秀才達へ

なかなか人生は上手くいかぬものである。 きっと打ちひしがれていることでしょう。或る者はロースクールなんかに進学しなければ良かったと後悔し、或る者は、一足先に社会人生活をスタートさせた友人に引け目を感じ、また或る者は、同級生が結婚し、人生の幸福を噛み締 ...

READ MORE

現代の魔女裁判

魔女裁判は中世ヨーロッパにだけ存在するものか。 被告人の認識に関する事実認定を考えてみよう。 認識が問題となる密輸事案にあって,被告人の行動や外形的事実から被告人の認識を推認するという手法がとられる。 間接事実から要証事実を推認するという認定手法自体 ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー