小沢聴取と検察官認知

東京地検特捜部は,23日土曜日に小沢幹事長の任意の事情聴取を行います。
これはどのような事情聴取なのでしょう。

今回の土地取引問題をめぐる収支報告書の虚偽記載事件は,石川議員や大久保容疑者らが刑事告発されています。
ですから,被告発者であり,被疑者です。しかし,小沢幹事長は告発されていません。ここがポイントです。

告発されている場合,鳩山首相(告発されていました)の献金疑惑でも明らかなように,検察官としては本人から事情聴取せずに終局処分をすることができません。鳩山首相の場合,総理大臣ですし,嫌疑も濃くはなかったので,出頭による事情聴取ではなく,上申書で言い分を聞くことに代えました。これ自体は特に不当なことではありません。

さて,小沢幹事長の場合はどうでしょう?小沢幹事長の場合,告発されていないので,小沢幹事長を聴取することなく,土地取引虚偽記載事件に幕を下ろしても法律上おかしなことにはなりません。
分かりますか?
もう少し詳しくお話ししましょう。

捜査を始める契機のことを「捜査の端緒」と言います。「捜査の端緒」には,警察からの事件送致,告訴告発,自首,検視,職務質問などがあります。小沢幹事長に対する今回の政治資金規正法違反の捜査の端緒となりうるものは上記にはありません。実は,捜査の端緒には「もう一つ」あるのです。それは,「検察官認知」です。

検察官が,投書やタレこみ,あるいは,別事件捜査の中で,犯罪の存在を認識することを「検察官認知」と言います。私も検事時代に,ある覚せい剤事件を捜査しているときに,別罪の同種事件があることに気づき,「検察官認知」をして捜査し,逮捕し,起訴したことがあります。
検察官認知をした場合には,検察庁は事件を立ち上げます。つまり,被疑者名,罪名などを特定し,事件番号(いわゆる検番)を付します。

とにかく,検察官認知を含めた「捜査の端緒」があって初めて終局処分,つまり,起訴・不起訴(嫌疑不十分,起訴猶予など)という終局処分が必要となるのです。「捜査の端緒」なくして終局処分はあり得ません。

小沢氏について「捜査の端緒」がありますか?
警察の事件送致はもちろんありません。告発も告訴もありませんし,自首もありません。
それでは,「検察官認知」はどうでしょう? 今回,東京地検特捜部は,今回の土地取引に絡む政治資金規正法違反について,小沢幹事長について,「検察官認知」をすでにしているのでしょうか?

私はまだ検察官認知はしていないと思います。石川議員や大久保容疑者などが虚偽記載に関する小沢幹事長の指示や小沢幹事長への報告を明確に供述し裏がとれない限り,検察官認知はないです。

検察官認知がない以上,終局処分の必要はない。終局処分の必要がないなら事情聴取の必要もないと言えます。

それでは,なぜ特捜部は小沢幹事長に任意の事情聴取を求めたのでしょうか?

これは,石川議員や大久保容疑者の政治資金規正法違反事件の終局処分をするに際し,その背景事情としての土地購入原資の解明が必要不可欠だからです。どうして必要不可欠かというと,それが石川議員らの虚偽記載の動機の解明に直結するからです。

仮に,原資がすべて小沢氏の自己資金によって賄われていたならば,石川議員が述べているように,「代表選前に小沢氏が大金を動かしているのが表面化すると不都合」という動機はうなづけます。しかし,もし,原資の中に,中堅ゼネコンからの裏献金が含まれているならば,上記の石川議員の動機はあやしくなります。そして,小沢氏の不記載への関与も疑いが出てきます。
ですから,特捜部は,原資の解明のために小沢氏からの任意の事情聴取が必要不可欠なのです。

それではそれだけか?小沢逮捕はないのか?
この質問に答えるには,まだ情報が足りません。ただ,言えることは贈収賄にはつながらないということです。小沢氏には職務権限がないからです。

ではそのほかの可能性は?どうでしょう。考えられるのは脱税ですが,現時点でそこまで捜査が進んでいるとは思えません。国税の動向,特捜部財政経済犯の動向がキーとなります。

いずれにしても,今回の事件を見極めるには,あまり憶測を先行させないで,冷静に事件を分析する必要があります。

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長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

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