刑事弁護士の中の「有罪推定」意識について

足利事件の菅家利和さんが書いた「冤罪 ある日私は犯人にされた」(朝日新聞出版社)を読みました。
この事件は,菅家さんが捜査段階のみならずどうして公判でも最初は犯行を認めていたのか,関心があったので,買って読んでみました。
一審で担当した弁護士は国選ではなく,私選だったのですね。しかも,捜査段階の当初から選任されていて,公判では二人の弁護士が担当している。どうして菅家さんは弁護士に自分が無実であることを打ち明けなかったのか不思議だったのですが,この本を読んで,「弁護士が偉そうにしている。」「警察,検事,弁護士の区別がつかなかった」という記述を読んで考えさせられてしまいました。
弁護士もDNAのマジックにかかっていたのでしょうか。DNA結果が一致してるのだから犯人に間違いがないというマジックにかかっていたのでしょうね。
裁判官は「無罪推定」の心証で審理に臨まなければいけないとはよく言われますが,実は,刑事弁護士にも「有罪推定」で依頼者と向き合ってしまうという落とし穴があるのかもしれません。

この「DNA」の問題は冤罪の象徴のような気がします。菅家さんの事件ではDNA結果が警察,検事,弁護士,裁判官に予断,偏見,思い込みを与えてしまいましたが,ある事件では,被疑者・被告人の「前科」がこのDNAの役割を果たすかもしれません。同種前科があるから今回の事件もあいつが犯人だという偏見です。また,ある事件では,出自がDNAの役割をはたすかもしれません。こうしたDNAマジックは冤罪を生む仕掛けとしてどこにでも潜んでいるということを肝に銘じなければなりません。

その点で,ちょっと気になることがあります。このブログでも触れましたが,「米原タンク殺人」です。全面否認のまま起訴されたのですね。これは裁判員裁判対象事件であり,現在,公判前整理手続が行われているはずです。まさか冤罪ではないでしょうね。

「刑事弁護」に関連する記事

個人の刑事責任,厳密判断 漁船の航跡,疑問残れば被告有利に

こんにちは。先日のブログでは,梅雨なのに雨がなかなか降らないなんて話しておりましたが,ようやく雨が降りましたね。これでやっと季節の移り変わりを,肌で感じることができそうです。梅雨といえば,紫陽花。紫陽花ほど雨が似合う花もありませんよね。曇天の薄暗い街 ...

READ MORE

のりピー逮捕その2(起訴猶予か?)

所持量は0.008グラムと少なく、使用後の残りに過ぎないと言いますし、尿検査結果も覚せい剤反応が出ないとすると、起訴猶予かもしれませんね。 吸引器のDNAだけでは使用罪を起訴するのは難しいです。 ところで、夫は尿検査結果はどうだったのでしょう?もし覚 ...

READ MORE

3人の釈放

今週,依頼人の3人の身柄釈放に成功しました。それぞれが別々の事件です。 Aさんは捜査段階で事実関係をすべて認め,起訴と同時に保釈請求をし,週明けの火曜日に保釈となりました。 事案の性質上,保釈保証金は300万円とやや高額です。 Bさんは路上での喧嘩の ...

READ MORE

わが“即独”体験記

 私は,司法修習終了後に検事に任官し,退官した後は,あさひ法律事務所(現西村あさひ法律事務所)に就職したので,厳密な意味での,“即独”を経験したことはない。ところが,事務所在籍中,政治家になることを思い立ち,故郷の函館で選挙区支部長として政治活動をす ...

READ MORE

被害者参加制度と裁判員裁判

こんにちは。気象庁が関東地方の梅雨入りを発表してからはや一週間。雨が全く降らないですね。予想外の青空と春風に,思わず気分も軽くなってしまいますが,ここまで晴天が続くと,今度は夏の水不足が心配になります。晴天が好きなはずなのに,晴天が続くと「梅雨らしい ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー