被害者救済と加害者のしょく罪
次のような記事がありました。
不要になった本を寄付してもらい、本来の買い取り額を犯罪被害者やその家族への支援金に充てる取り組みが進んでいる。
「本(ホン)」で「輪(リング)を広げよう」との意味を込めて「ホンデリング」と名付けたこの活動は、スタートから約1年4か月で約200の個人・団体から1万9000冊(約55万円分)の本が集まり、被害者の医療費や転居費などに役立てられている。
ホンデリングは、認定NPO法人「全国被害者支援ネットワーク」(東京)と、古本の買い取り販売業者「バリューブックス」が協力して、2011年12月に開始した。客から寄付してもらった古本を同社が査定し、その金額をネットワークに寄付する仕組みだ。
ネットワークは賛助会員らにチラシを配ったり、ホームページを作ったりして、取り組みを紹介。大学生のボランティアグループや個人から寄付が集まるようになり、個人で72冊(約2万円分)譲ってくれた人もいた。「古本回収ボックス」を置き、支援に協力する県警もある。
同ネットワークが12年度、犯罪被害者の支援のために支給した寄付金は120件。このうち九州・山口・沖縄では計24件支給された。事件でけがを負った人の治療費や、自宅が性犯罪や殺人、放火などの被害現場となって住めなくなった時の引っ越し費用、病院や警察署、裁判所へ行くのが必要な人の交通費などに充てられた。
けがの治療費として支援金を受け取った九州在住の女性からは「仕事も休みがちになり、収入が減ってしまう状況でした。本当に助かりました」と感謝の手紙がネットワークに届いたという(2013年5月20日08時39分 読売新聞)。
罪を認めている被疑者の捜査弁護においては,被害者の方との示談交渉が何よりも重要になってきます。被害者の方は,犯罪による直接の被害の他にも,種々の苦痛を受けており,示談交渉の際には,被疑者側の代理人である弁護人も,被害者の方の苦痛を理解し,被疑者にも理解させ,そうして深まった被疑者の悔悟の情をまた被害者にフィードバックしてあげる。そのことが被害者の痛みをいくらかでも緩和してあげることになり,被疑者のしょく罪にもつながります
一方で,被害者の経済的困窮を救うために被疑者のしょく罪寄付を活用できないか考えたことがありますが,ある犯罪被害者団体は,被疑者からの寄付を一切断っています。自分たちの団体が寄付を受けることで,寄付をした被疑者の刑事責任が軽くなり,それによって特定の犯罪被害者の処罰意思を踏みにじることになると考えているからです。被疑者のしょく罪寄付というのは,被害者と示談が成立しない場合,つまり,被害者の処罰感情が厳しい場合に行われることが多く,この犯罪被害者団体の考えはもっともなことだと思いました。
犯罪被害者救済といっても,ただ単に金銭的に救済すれば良いというものではなく,犯罪被害者の方々の苦しみを知ることから始めなくてはなりません。刑事弁護士として肝に銘じなければいけないことです。