押尾学被告人に執行猶予5年間

MDMA使用で押尾学被告人に懲役1年6月,執行猶予5年間の判決が今日言い渡されました。
5年間ですか。長いですね。
通常,薬物使用の初犯は懲役1年6月,執行猶予3年間です。
おそらく執行猶予のつく判決の全体の60%は3年間という執行猶予期間です。5年間という長期の猶予期間がつくのは,せいぜい15%くらいなもので,犯行態様,結果の重大性,前科前歴などから実刑か執行猶予かのボーダーの事案で見られます。

ところが,押尾被告人の場合はどう考えても実刑にはならない事案です。
どうして5年間もの長期の執行猶予期間を付したのでしょう。
報道によれば,判決の量刑理由として,犯行発覚に至るまでの経緯や発覚後に関する押尾被告人の言動が不自然であることなどを5年間とした理由にあげていたとのことです。

この供述の不自然性に関する問題の証言は以下の点です。
押尾被告人は,体調を急変させて亡くなった知人女性に対し,「来たらすぐいる?」とメールを送っていたそうです。検事はこの「いる?」というメール文言の意味について,「MDMAがいるか?」という意味であると主張していたのに対し,押尾被告人や弁護人は,「自分の体がいるか」,つまり性交渉を暗示したものだ」と主張していました。
皆さん,どう感じます?性交渉を意味する言葉として,「いる?」という言葉を使いますかね?「いる?」という言葉のニュアンスは,自己の体から離れている目的物を指すものとして使われ,自分の体そのものを客観視して「いる?」とはなかなか言わないのではないでしょうか。そのような表現でセックスを示唆する「習慣」が二人の間にあったのであれば別ですが(この点を弁護人が立証できないなら危険な弁解です)。
もちろん,「MDMAを意味している」とも断言できるものでもありません。被告人・弁護人の説明の方が説得力を欠く,という程度の違いです。

しかし,裁判官は,この「白々しい」弁解にカチンときたのでしょう,反省していないと認定しました。
つまり,真実を話していない→真摯に反省していない→再犯の可能性が高い→5年間は緊張感をもって生活して欲しい。
という裁判官の気持ちの表れが,この5年間という長期の執行猶予の意味なのでしょう。

いずれにしても,客観的な犯行態様,被害結果,前科前歴といった事情とは異なった,「被告人の反省の度合い」という主観的事情を執行猶予期間の長さに反映させた判断は,これまであまり見られなかったように思います。


更に詳しく知りたい方は「執行猶予判決とは?」をお読みください。

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代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

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