刑事弁護士の中の「有罪推定」意識について

足利事件の菅家利和さんが書いた「冤罪 ある日私は犯人にされた」(朝日新聞出版社)を読みました。
この事件は,菅家さんが捜査段階のみならずどうして公判でも最初は犯行を認めていたのか,関心があったので,買って読んでみました。
一審で担当した弁護士は国選ではなく,私選だったのですね。しかも,捜査段階の当初から選任されていて,公判では二人の弁護士が担当している。どうして菅家さんは弁護士に自分が無実であることを打ち明けなかったのか不思議だったのですが,この本を読んで,「弁護士が偉そうにしている。」「警察,検事,弁護士の区別がつかなかった」という記述を読んで考えさせられてしまいました。
弁護士もDNAのマジックにかかっていたのでしょうか。DNA結果が一致してるのだから犯人に間違いがないというマジックにかかっていたのでしょうね。
裁判官は「無罪推定」の心証で審理に臨まなければいけないとはよく言われますが,実は,刑事弁護士にも「有罪推定」で依頼者と向き合ってしまうという落とし穴があるのかもしれません。

この「DNA」の問題は冤罪の象徴のような気がします。菅家さんの事件ではDNA結果が警察,検事,弁護士,裁判官に予断,偏見,思い込みを与えてしまいましたが,ある事件では,被疑者・被告人の「前科」がこのDNAの役割を果たすかもしれません。同種前科があるから今回の事件もあいつが犯人だという偏見です。また,ある事件では,出自がDNAの役割をはたすかもしれません。こうしたDNAマジックは冤罪を生む仕掛けとしてどこにでも潜んでいるということを肝に銘じなければなりません。

その点で,ちょっと気になることがあります。このブログでも触れましたが,「米原タンク殺人」です。全面否認のまま起訴されたのですね。これは裁判員裁判対象事件であり,現在,公判前整理手続が行われているはずです。まさか冤罪ではないでしょうね。

「刑事弁護」に関連する記事

犯人の証拠隠滅に弁護士が協力?

今日は「弁護士と証拠隠滅」について考えてみます。 愛知県警の警部への脅迫事件で逮捕された風俗店「ブルーグループ」の実質経営者S被告=脅迫罪などで公判中=が,別事件で勾留中の2011年夏ごろ,留置施設に接見に来た女性弁護士の携帯電話で,部下のグループ幹 ...

READ MORE

念頭に思うー近代合理主義の功罪

エマニュエル・カントに代表される近代合理主義思想にあって,「目的」と「手段」の概念的な分離は近代社会樹立にとても重要な役割を果たしていると思う。 カンティアンの神髄は,私もそうであるけど,道徳的に自立した存在である他人を「手段」にしてはならず,それ自 ...

READ MORE

若き法曹へ

うちの事務所の若い弁護士は、私の事件を通して良く学んで下さい。 刑事弁護士の苦労はどこにあるのか、無実の人を助けるため国家権力と戦うことがどんなにしんどいことか、技術よりもパッションこそが真実に近づく近道であること、私が常に言っている「常在戦場」の意 ...

READ MORE

冤罪はなくならない?

今日,3月26日,宇都宮地裁で,Sさんに無罪が言い渡されました。 冤罪を生む司法の構図を改めて考えてみる必要があると思います。 Sさんの事件は,DNAの正確性が決定的に誤判に作用した事例ですが,やはり,「自白」も大きな誤判の原因でしょう。 この虚偽自 ...

READ MORE

個人の刑事責任,厳密判断 漁船の航跡,疑問残れば被告有利に

こんにちは。先日のブログでは,梅雨なのに雨がなかなか降らないなんて話しておりましたが,ようやく雨が降りましたね。これでやっと季節の移り変わりを,肌で感じることができそうです。梅雨といえば,紫陽花。紫陽花ほど雨が似合う花もありませんよね。曇天の薄暗い街 ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー