児童ポルノとCG加工

今日は「児童ポルノとCG加工」のお話です。

コンピューターグラフィックス(CG)で児童ポルノ画像を製造し,インターネットで販売したとして,警視庁は7月11日,岐阜市正木,デザイナーT容疑者(52)を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(提供目的製造など)の疑いで逮捕したと発表した。

CGの児童ポルノの摘発は全国で初めて。

同庁幹部によると,T容疑者は2009年12月,約30年前に雑誌に掲載された少女の裸の写真をCGで加工し,昨年12月,島根県の男性に約3000円でダウンロードさせた疑い。

T容疑者は「CGなので販売しても大丈夫だと思った」と供述している。しかし,同庁は,CGによる画像でも実在の少女を基に描写すれば児童ポルノにあたると判断した(2013年7月11日12時42分 読売新聞)。

単純所持罪に関する議論など,最近は「児童ポルノ」を巡る問題がよく取り上げられています。児童ポルノと言ったときに,おそらく皆さんが想像するのは,ポルノ写真だと思います。ですが,今回問題となったのはポルノ写真そのものではなく,ポルノ写真をCG加工したものです。一見すると,CG加工した物全般にまで「児童ポルノ」の解釈を拡大したようにも思えますが,そうではありません。せっかくですので,少し「児童ポルノ」の対象範囲について考えてみましょう。

「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって,①児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態児童の姿態,②他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの,または,③衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの,を視覚により認識することができる方法により描写したものをいいます(児童買春・児童ポルノ禁止法2条3項参照)。

そして,ここでいう「児童」とは,18歳未満の男女をいいます。「その他の物」には,写真やビデオテープなどのように例示されている物に類する物をいうものと考えます。

そうすると,絵やCG加工した物は,明示こそされていないものの,「その他の物」に含まれて規制対象となる可能性があるのです。特に,実在する児童を特定可能な程度にリアルに描写した絵などは,「その他の物」に該当する可能性が高くなります。今回問題になった対象物は,約30年前に雑誌に掲載された実在の少女の裸の写真をCG加工した非常に精巧な物のようで,写真に類する物として「その他の物」に該当すると判断されたのでしょう。実在している人物の存在が判断の分かれ目となったようですので,写実的なCG加工物であれば,たとえ空想の人物であっても処罰対象となる,とまでは考える必要はないのです。

このように考えると,空想の人物でも実在世界に存在する誰かに似ていることもあるのではないか?空想の人物であってもリアルで性欲を刺激するようなものは規制対象にしても良いのでは?という反論も出てきそうです。この反論は妥当でしょうか。

児童ポルノ法と一見すると似ている,青少年保護育成条例は,「有害指定図書」の流通を制限しています。その規制の趣旨は,心身の未成熟な青少年が,著しく性的感情を刺激するような有害図書を閲覧することで,健全な育成を阻害されることを防止する点にあります。仮に,児童ポルノ法が,青少年保護育成条例と同じ趣旨で「児童ポルノ」の流通を禁ずるのであれば,児童一般の健全な育成を保護するために,空想の人物であっても児童の性的感情を著しく刺激するようなリアルなものは,規制の対象とする方が合理的なように思います。

しかし,児童ポルノ法は,直接的には,児童ポルノに描写された児童の保護を目的とするものであり,間接的に,児童一般を保護することをも目的とするものと解されています。したがって,モデルとされた児童本人を保護するという観点から,「児童ポルノ」に該当するためには,モデルとされた児童が実在することが必要だと考えられているのです(大阪高裁平成12年10月24日)。また,実在の人物と「リアルな空想の人物」との境界線は極めて曖昧です。そうすると,侵害されるべき具体的な利益を有しない空想の人物についてまで保護を拡大する必要はないのであって,むしろ表現の自由の保護を優先させる方が妥当ではないか,という価値判断が働きます。このように,児童ポルノ法と青少年保護育成条例とは,規制の趣旨が異なる以上,導かれる結論も異なるのです。以上より,上記反論は妥当ではないものと考えます。

「児童ポルノ」を規制すれば,作成者の表現の自由を一定程度制限することは否めませんが,かといって,安易な制度批判に偏らないよう注意しなくてはなりません。将来,もしも表現の自由が著しく侵害された場合に建設的な議論ができるよう,日々冷静に警察・検察の立ち位置を分析し議論していく必要があるでしょう。

「事件」に関連する記事

特捜部に「武器」を

2月4日,東京地検特捜部は石川氏ら3名を政治資金規正法違反で起訴すると同時に,小沢氏を嫌疑不十分で不起訴処分としました。共謀を問うだけの証拠がない,ということらしいです。 陸山会の土地取引をめぐる不記載問題について,共謀を基礎づける上で重要なポイント ...

READ MORE

LINE使い脅迫容疑,男逮捕 元交際相手に800回送信

今日は「LINEを使った犯罪」について考えてみます。 元交際相手の女性に約800回にわたり無料通話アプリ「LINE(ライン)」などを使ったメールを送って脅したとして,警視庁東村山署は17日までに,無職,I容疑者(24)=東京都中野区=を脅迫の疑いで逮 ...

READ MORE

記録と戯れなさい

事件に出会い、初めて向き合ったとき、この事件はあの事件と似てるなとか、あのときの結末、つまり判決宣告と同じ感じで終わるだろうなとか、こういった思いに直ぐに縛られてしまうものです。それは弁護士として経験を積んでいればいるほど、自ら進んで「経験」という名 ...

READ MORE

シー・シェパードの船長逮捕!

シー・シェパード船長が逮捕されました。 容疑は艦船侵入罪です。 住居に侵入した場合に住居侵入罪となるよう に,艦船に侵入した場合,艦船侵入罪として罰せられます。 3年以下の懲役または10万円以下の罰金です からそれほど重い犯罪ではありません。 シー・ ...

READ MORE

今なお続く振込詐欺被害

次のような新聞記事がありました。 米ニューヨーク市場での金取引を装った投資話で現金をだまし取ったとして,千葉県警は21日,K容疑者(40)ら男女11人を詐欺の疑いで逮捕した。 県警は1月に事務所などを捜索,押収した資料などから,K容疑者らが2008年 ...

READ MORE
代表弁護士・元特捜検事 中村 勉
中村 勉 代表弁護士・元特捜検事

長年検事として刑事事件の捜査公判に携わった経験を有する弁護士と,そのスキルと精神を叩き込まれた優秀な複数の若手弁護士らで構成された刑事事件のブティックファームです。刑事事件に特化し,所内に自前の模擬法廷を備え,情状証人対策等も充実した質の高い刑事弁護サービスを提供します。

詳細はこちら
よく読まれている記事
カテゴリー